Special Novel

4    エピソード4
更新日時:
2003.05.01 Thu.
 MASH事務所内…
「……権蔵」
 相変わらずの苦虫を噛み潰した様な表情の署長の視線が、先ほど提出された始末書からその提出者の方に移動した。
「はぁ、何でしょう?」
 …蛇に睨まれた蛙のように権蔵は硬直したまま動かない。
「これと全く同じ文章を3週間程前にここで目を通した様に思うが、気のせいだったかな…?」
「は…はぁ、それは…明らかに気のせいでしょうな…ほ、ほらいわゆるデジャブーってやつで…」
 権蔵は鏡を突き付けられたガマの様だった。
「そうだったかな…何しろ提出された始末書が余りにも多いものだからそういう風に思うだけなのかもしれんなぁ」
 所長の言葉には露骨な嫌味でこってりとデコレートされていた。
「そ…そ〜ですよ、私ほど勤勉だとどうしても『不慮の事故』というものが相対的に増える訳でして…」
「…『Deja=Voo』とか『相対的』などという高等な単語がお前の口から出てきたのは驚きだが…まぁいい。この始末書を提出して本部長が私と同じ疑問を持った場合は、お前の給料が無くなるだけだからな」
 そういいながら所長は権蔵の始末書を封筒に収め、机の引き出しにしまい込もうとした。
「ちょ〜っと待って下さい!!」
 慌てて権蔵が飛び付きそれを両手で制止した。
「なにかね?」
 署長は、悪意まるだしの視線を彼に向けながらもとぼけた表情で聞いた。
「あ、いえ…その…そういうことでしたら、より印象を良くするためにも少し加筆修正なぞ…」
「ほう…印象が良い始末書というものがこの世にあるのか?初めて聞いたぞ」
「………」
 言葉を失う権蔵…
 その権蔵の肩を後ろから隼人が叩いた。
「権蔵くん、後がつかえているんだが…生憎署長はむさい男に手を握られて喜ぶような趣味はないよ」
 隼人のその言葉を聞いた権蔵はゆっくりと所長の手を離し目尻の辺りを細かくケイレンさせながら右に一歩退いた。
 
 この二人…堅岩権蔵と伊集院隼人は出生、性格、境遇等まったく異なっているにも拘らず、20年来の強力な『腐れ縁』で結び付けられていた。……学生時代は常に同じクラス、就職にあたっても一方は左遷、もう一方は書類の手違いでMASHに配属…と、ここまでくると運命の神樣という奴の作為的な力とういヤツを疑いたくもなる。
 
 隼人はその場を埋める様に一歩前に出ると所長に一礼し、一言「申し訳在りません」と発した後、自分の始末書を提出した。
 所長は、それを無言で受取り内容を確認した後、一つ溜め息をついた。
「隼人…スマンな、今回のは権蔵一人の失態だったのだが、上層部はそうは見てくれんからなぁ」
 権蔵とは露骨に違う隼人との対応に、所長から見て左側に立っている人物は必死で怒りを押さえていた。
 そんな彼を完全に無視して対話は続いた。
「ええ、判っています。だれかと違って連帯責任という意味は理解しているつもりですから」
「そう言ってくれると私も少しは気が楽になる」
「御察し致します」
「まったく他の二人も見習って貰いたいものだ………ん?」
 この時点で所長は事務所の中に姜の姿が無いのに気が付いた。
「羌の奴はどうした?!」
 事務所内を見回しながら二人に聞いた。
「パトロールという名目でアクア二高に行きましたけど」
 淡々と隼人が答えた。
「なぜだ?ワシはまだ何も…」
「2ケ月前の痴漢騒動で所長は彼にパトロールを命じていたと思いますけど…確か“所長からの中止命令は出ていない”と本人は嘯いてましたが…」
「何を考えとるんだあいつは?」
「…さぁ」
 肩を竦める隼人。
「どうせパトロールにかこつけてロクでもない事でもやってんだろ?例の痴漢も実はあの飲茶バカの仕業だともっぱらのウワサだしな」
 無言で肩を竦める隼人。
 この点は権蔵も隼人も同意見だった。
偏頭痛が所長のこめかみに襲いかかったのはそれから数秒経ってからの事である。



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