Special Novel

2    エピソード2
更新日時:
2003.05.01 Thu.
 “本日正午ごろ、市内において広域テロリストグループ、MTMの襲撃がありましたが、午後2時45分、SLICE、MASHの治安維持組織により鎮圧されました。これにより交通規制が敷かれておりました45号線、46号線は通行可能となりましたが、30号線の南岸壁第六埠頭に向かう約4q、復旧工事のため明後日まで通行不能、44号線、30号線との立体交差のところで明日まで片側交互通行となっております。鉄道およびバスなどの交通機関も運行が再開されましたが、大幅にダイヤが乱れて…”
 
 MASH(アクアシティ治安維持局)のガレージ内… お世辞にも良い環境とはいえない作業所内の壁面に吊り下げられたラジオが、さきほどの事件を淡々と報告している。この20世紀初等から存在する放送メディアの元祖は、200年近く経ってなお未だ消え失せず、我々に情報を提供してくれていた。
 
「お〜ぉ。また派手にやりおったなぁ」
 サルベージされ、ハンガーに収まった『ヴォルク』を見上げながら 整備班長のジョニー富山のタメ息が漏れた。洗浄と乾燥はとりあえず完了したものの、やはり関節部など細かい隙間などには塩が結晶化してこびりついている。この様子だと内部電子システムは海水内のナトリウムで全てオシャカになっているだろう、当然ソフトウェアも同様に…。
 富山は優秀なメカニック・エンジニアだった。
 しかし、彼も神ではない。
 このクラスの機動メカともなると、修理やオーバーホールともなればメカニック、エレクトロニクス、ソフトウェアの各エンジニアが最低一人づづは必要だ。
 が…MASHに正式に所属しているエンジニアはジョニー一人だけである。そもそも首が回る訳がない。
 本庁に派遣依頼を申し込んだところで、組織の解体を目論んでいる上層部が承諾してくれそうもない。現に2年も前から増員の依願届けを出し続けているものの、梨のつぶてである。
 こうなると民間企業に委託して修理…ということになるのだが、実はこれにも気が引けていた。 
 理由は、つい2週間前にこの『ヴォルク』のC整備(内部を解体して徹底的に調べる整備)を民間企業、富士重工のFG用整備工場に上層部の許可無く依頼し、その費用の捻出を無理やり事後承諾させたばかりだったからである。
 この件について署長は富山に対し何も言わなかったが、結城本部長の出頭命令があった翌日から署員への風当たり(八ッ当たり?)がいっそう強くなっていた −そもそもロシア製の機械なので日本の規格外の部品が多く、かなりの請求額になったようだ− 。
とにかく、これ以上たて続けに御上の機嫌を損ねるのは、署長の精神衛生も含めて良い事ではなかった。
「やはり、呼ばんとどうにもならんか…」
 あまり気乗りのしない事を意味する溜め息を一つついて、意を決してジョニーは電話の受話器を取り、この状況を打開する最後の手段である自分自身のコネクション、ジャンク・ダルクとラル・ラーイ・ランジートのPB.ナンバーをダイヤルした。
 
 ジャンク・ダルクは50年前の『悪夢の一週間』以来消え去った国、アメリカ合衆国の国籍をもつ人物である。
 
 運命の核攻撃により国家が滅び、難民として世界中に散り散りになった米国人はヤンキー魂ともいうべきイデオロギーのもと連携しつつ各国に根を下ろし、米国時代の ―ある者はテクノロジーを、 ―ある者は莫大な資本を、 ―ある者は絶妙な政治手腕を駆使し、各国の政財界の重要ポストに食い込んでいった。
 この状況を快く思わない自国民は少なくなかったが、過去にこれに酷似した運命を持ったユダヤ民族のことが頭をよぎり、非人道的な迫害を加える事をためらわせた。
 こういった人類の歴史の汚点にも助けられ、米国人は各国に存在を受け入れられてゆき、そして2095年現在、彼等は既に国家、経済の運営に必要不可欠というべき存在になっていた。
 
 生憎ダルクはそういった事にはまったく無縁な立場(…の筈)ではあったが、フロンティア・スピリットとアメリカン・ドリームを信奉する生粋のヤンキーズである事にはかわりなかった。
そして、夢をつかみ取る術として彼が神より授かりし才能は、機械工学というものであった。彼は富山を師と仰ぎ、MASHのハンガーに四六時中通い詰めながらその知識と技術を次々と吸収して己のものとし、そして今では彼の有能な片腕となっていた。
 
 ラル・ラーイ・ランジートは海外特派員である父親と一緒に日本に移住してきたインド国籍の人物である。
 
 彼女はとある一件で犯罪者としてMASHに現行犯逮捕されたが、起訴状の留保と引き替えに、保護観察という名目で定期的に出頭を命じられていた。
彼女は富山の知り得る限り、ソフトウェアに関しては世界屈指の知識と技量を持っている、電子・コンピュータ関係の精通者だった。
 
 2人は、MASHの数少ない理解者であり協力者である。にもかかわらず、ジョニーは彼等を呼び出すことにためらいを感じないではいられなかった。と、いうのも…。



BackIndexNext

ホーム ● GS GS行動オプションルール GS強化パーツ案 緊急回避判定時のクリティカル案 掲示板 リンク集


メールはこちらまで。