Special Novel

1    エピソード1
更新日時:
2003.05.01 Thu.
 アクアシティ南岸壁第六埠頭。
 普段は貨物の積み降ろしの喧騒に包まれている場所なのだが、つい3時間程前にその主役の交替を余儀無くされていた―。
「どういうことなのか、具体的に説明してもらおうか!」
 波止場に直立不動で立っている三人に、梅雨明け直後の陽射しよりも鋭い、内海署長のダミ声が突き刺さった。
「いやぁ、何と言いましょうか…ええ、この陽気ですから機械も海水浴がしたかったのでしょうなぁ…」
 三人のうちの一人…先程真夏の海水浴を着衣のまま成し遂げたばかりの堅岩権蔵というストーカーパイロットから、立場を悪くするだけのジョークが発せられた直後、まるで見えないポンプで血の気が他の二人から所長の体内に注ぎ込まれたような現象がみられた。
 そして、その結果はだれにでも予測可能なものだった。
「お前達はそこまでワシをコケにするつもりか…そうか、分かった」
 顔は怒りのために明らかに上気しているが、顔付きだけは冷酷な表情をつくりあげると、踵を返し、虚空をみあげる…
「お前等三人ともボーナス50%カット、今回の賞与全額没収…ストーカー回収確認後帰投、24時間以内に始末書を提出せよ。尚、一秒でも遅れた場合は更にボーナス50%をカットする…以上」
 そう淡々と述べるとそのまま歩きだし指揮車に搭乗、彼等の視界から消えた。
 その後、堅岩と姜(きょう)の二人がののしりあい、伊集院が呆れて見ているというお約束の展開が始まった…。
 一方、彼等が埠頭の一角で筆舌に尽くし難い罵倒合戦をくりひろげていた頃…
「2番、ワイヤー掛かってるな」
「4番、巻き過ぎだ。ちょい戻せ」
 そして…
「よーしいいぞ。巻き上げろ!」
 誘導員の指示のもと、3台のクレーン車、1隻のサルベージ船が一気にワイヤーを巻き上げる。
 数分後、3時間前からの第6埠頭の主役、MASH所属のストーカーが港近くの海中から引き上げられた。
 その肩にあたる装甲板にある『VOЛΚ』の文字からロシア製だと判るそれはロシア科学アカデミーの技術の粋を尽くして作られた兵器であり、その名に相応しい攻撃的なフォルムを持つストーカーである…。
 ―が、4本の牽引ワイヤーでがんじがらめにされ、関節部の至る所から海水を吹き出し、表面に海藻まで張り付かせているその姿はツンドラを疾走するヴォルク(狼)というよりも、ワーナー・アニメに出てくる間抜けなプレーリー・ウルフ(コヨーテ)のイメージの方がよほど似合っていた。
 この宙吊りにされた場違いの俳優は、その後速やかにトランスポーターに収容された。
 その状況を喧嘩の蚊帳の外にいた伊集院が確認、報告にやってきたものの二人の喧嘩を見ながら呆気にとられている誘導員に「ああ、あれは気にしなくていいから」と言ってたしなめると、彼から報告書とサルベージ料の明細を受け取った。その後、突き合わせている羌と堅岩の顔面を両手で(しっかりサルベージ料の明細を堅岩の顔面に押し付けて)引き剥がしてから自分のパトカーに乗り、その場から去った。
 残りの二人もさすがに理性を取り戻し、「ふん!」と互いに一言発すると、視線を外して各々のストーカーのトランスポーターに乗り込み、その場を退場となった。
 
 そして、アクアシティ南岸壁第六埠頭に『事後処理班』という名のまた新しい俳優が登場する。
 



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