Special Novel

10    エピソード10
更新日時:
2003.09.07 Sun.
 今回ラルが覚醒させた部分を各I/Oポートとのリークを済ませ、シュミレートさせてみた。
「おーし、これでこいつも数段利口になったわぁ」
 情報端末に表示される結果報告を見ながらラルはほくそ笑んでいた。
 それはストーカーに関する彼女の持論が正しい事を証明するものであった。
 そして、今回覚醒に成功した所もB・BOXのほんの一部にすぎないことも分かった。
――こいつにはまだ多くの謎が秘められている――
 そう思うとラルは嬉しくてたまらなかった。
 新しい遺跡を発掘して新発見をした考古学者もこんな気分なのかも知れない……などと考えながら一人満足感に浸っていた。
 その直後………
「ちょっとラル!なにしてるの」
 沙希江の激しい口調の呼び掛けで、ラルは自分の世界から引き戻された。
「ん、あぁ、沙希江はん…どしたん、ウチなんか悪い事した?こんな夜遅くに凄い剣幕で……」
「夜……って、ラル、今何時だと思ってるの」
「…ん?」
 そう言われてポケットから懐中時計を取り出して針を読んでみる
 ………8時2分
「なんやてぇ〜〜っ!!!」
 この時点になって初めて自分の置かれている状況に気が付いた。暗いハンガーの中で一人黙々と作業に熱中していた余り、とうの昔に太陽が昇っている事にまったく気が付かなかったのだ。
「学校始まるん、あと30分もないやんかぁ!」
「ごめん!寝坊しちゃったの。急いで着替えて!私はもう閉門には間に合わないけどラルだけならまにあうでしょ」
「うん、わーった!」
 急いででコックピットから飛び降りようとして…ふと考えた。
 確かに自分一人ならMTBでカッ飛べばギリギリ間に合う。
しかし自分のためにいろいろと世話を焼いてくれた沙希江を見捨てるような事は性分が許さない。
かといって、沙希江とタンデムだと無理な走行はできない…多分振りとばしてしまう。
そうなると到底間に合わない。
 
 だがこいつなら………。
 
 ラルはシートに座り直し、『ヴォルク』の起動イグニッションを回した。
 メインコンソールが点灯、パイロットチェックが始まるが、そんなプロテクトはラルには意味をなさない。あっさり通過し、システムチェックへ移行、各可動部の動作テストが行われ異常がない事を確かめる。
「沙希江はん!!」
「え?!」
「乗ってんか!動作テストを兼ねて送るわぁ」
 沙希江は面食らった顔のまま力なくうなづいた。
 
 そもそも『ヴォルク』のコックピットは単座だが堅岩一人より15歳の女子高生二人の方が体積が小さかったので何の問題もなかった。
 並んで座り4点式シートベルトで二人まとめて固定する。
「ラル、こんな格好で運転なんてできるの?それに間に合ってもこんなもの校庭に置いとけないわよ」
「No problem! 操縦は全部こいつが考えてやってくれるし、ウチら送った後勝手に帰らせるようにするから」
「え?」
「一晩かけて『ヴォルク』の自己判断システムの一部を覚醒させたんや。こいつに基本命令と判断材料を渡してやったら自分で勝手に考えて動いてくれる」
 ラルはそういうと自分の情報端末から基本命令の入力と情報の転送を始めた。
 アクアシティのナビゲーションマップの転送
 現在位置の指定
 目標位置の指定
 最高目標到達時間の入力
 交通渋滞情報の転送………etc
「ラル!閉門まであと20分切っちゃったよ」
 沙希江がなかなか動き出さないヴォルクに焦りと心配の色を隠せずラルに向かって叫んだ。
「おっしゃ!予想最低到達時間13分40秒。充分間に合うで、沙希江はん」
 沙希江の声にすぐ呼応したかの様なタイミングでラルが言った。
 ……そしておもむろに
「 承 認!!」
 そう叫びながら人差し指でリターンキーをはたいた。
 
 素早くコックピットのキャノピーが閉じる。
 鈍い音を立てながらハンガーのロックが外れた。
 軽い衝撃。
 ゆっくりと正面の出口の扉が開いてゆく……
 そして、扉が完全に解放された直後、いきなり『ヴォルク』は疾走を開始した。
 土埃を巻き上げMASHの敷地を疾走、門扉を蹴飛ばして一般道への進入を果たした。
 
 200m先の突き当たりを左折……
 左足のターンピックを路面に突き立て強引に慣性を相殺し、あたかもショートトラックスケートでコーナリングを掛けるような姿勢をっとた。
 アスファルトを5mほどえぐり取り、路上駐車していた自転車と原付を5台踏みつぶし、2台がつきあたりのコンビニのショーウィンドーを突き破ったところでついに慣性は低抗を諦め、左方向への運動を許した。
 
 外の惨状に負けず劣らず、内部も絶叫マシーン顔負けのスリルの巣窟と化していた。
「ちょ、ちょっとぉ…ねぇ、ラル?」
 一連の恐怖に顔をこわばらせて沙希江がラルに声を掛ける。
「ん……なんやぁ?」
 さしものラルも笑いがひきつっている。
「これ…ちょっと、乱暴すぎやしない?」
「うん……いやぁ、よう考えたらこいつの行動学習データって……権蔵のやったもんな」
「えっ?!、それじゃぁ……」
「権蔵のやりそーな行動をほぼ忠実にシュミレート…………」
「…………」
 これから降りかかるであろう、予測不能な展開に二人は恐怖した。
 
 8分経過。
 比較的大きな道に出た。
 それまでにかなりの自転車を踏みつぶしていた。
 
 その理由はこのストーカーのメインパイロットの性格が大きく反映している可能性が大きい。
 『ヴォルク』で駅前の放置自転車の撤去作業をいやいやさせられている権蔵からみれば、自転車は踏みつぶしたくなる粗大ゴミ以外のなにものでもないのだ。いや、行動学習パターンに反映している所をみると権蔵が故意に踏みつぶした事もあったのかもしれない……。現に自転車の存在を無視しているというより、狙って踏みつぶしている様にもみえる。
 とりあえず大きな道に出た以上は、停めてある自転車も存在しなくなった訳でそれを立証する機会もなくなった。
 
 ――時速50q――自動車の流れに合わせる。
 ラルと沙希江はようやくひと心地ついた。
「ねえラル、この道だと学校に着けないと思うんだけど?」
「そうやな…ちょっと検索してみる」
 手際良く情報端末を操作し、『ヴォルク』が選定したコースを表示させる。
「あぁ、心配ないわぁ。この先を左折するようになってる」
「それってどのくらい先?」
「ええっとだいたい50m先やな」
「じゃあ……そこじゃないの」
「あん?」
 
 沙希江が指差した所は高架橋になっていた。
 ちなみにそこは左折合流する側道はない。
 
「へっ?!まさか……ウソやろ」
 高架の前で『ヴォルク』が大きく腰を落とす……そして跳躍。
「んなああぁぁぁぁっ!!」
「いや〜〜っ お母さ〜〜ん!!」
 
『ヴォルク』は高架上に見事に着地、それと同時に左足のターンピックを路上に打ち込む。
 ジャンプの余力を使ってそのまま左旋回し、何事もなかったように路上を走り出した。
 



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