Special Novel

11    エピソード11
更新日時:
2003.09.07 Sun.
「沙希江はん、大丈夫かぁ?」
 ラルが沙希江を揺り起こす。
「う……うん。私……生きてるの?」
 沙希江は『ヴォルク』の高架橋ジャンプの瞬間から記憶がない…。
「うん、しっかりな。ほやけどほんま死ぬか思うたわ」
「あと何分で到着するの?」
 精も根も尽き果てたという声でラルに聞いた。
「おまちどぉ…ただいま到着」
 ラルがそういった直後に『ヴォルク』が停止、キャノピーが開いた。午前8時26分…B・BOX弾き出した予測到着時刻より若干早かったようだ。
「あれ…ここ学校の裏側じゃない?」
シートから解放され、体を起こして辺りを見渡した沙希江がラルに聞いた。
「あぁ、このままやとこいつ校門を蹴破ってまう思うてな、到着ポイントを急遽変更して学校裏の路上に変更したんや」
 そう言った後、ラルは操作をマニュアルに変更し、『ヴォルク』をゆっくり慎重に学校の塀に寄せた。
 そして、ゆっくり降着姿勢をとらせると、丁度塀の上にコックピットが来るあたりで停止させた。
「沙希江はん、そっから飛び降りてんか?だーれも見とる奴おらへんしこっからやったら余裕で間に合うから」
「え?あ、うん」
 ラルに促されて、沙希江はぎこちなくコックピットから飛び降りた。
「……沙希江はん」
 ラルは沙希江が無事に校庭に降りたのを確認してからバツの悪そうな顔をしながら名前を呼んだ。
「え、なに?」
「ゴメン!!ウチ今日病欠いう事ににしといて」
 ラルは顔面のすぐ前で、力を込めて手を合わせた。
「え?!でもどうして?」
 沙希江もかなり驚いている。
「いや、最初はこいつ無人でMASHまで帰ってもらおうと思うとったんやけど、帰りもさっきみたいな操縦されたらシャレにならんでなぁ。ウチがリミッターかけてやらんとヤバそうなんや、それに……」
 ラルはいっそう申し訳ないという顔で話を続けた
「徹夜明けで授業まともに受ける自信ないんや。お願い、見逃して!この借りはあとでなんかの形でまとめて返すさかい」
 ラルの切実な哀願に、沙希江は折れた
 ……一つ溜め息を付く
「しょうがないわね、わかったわ。ラル、気を付けて帰ってね」
「おぉ〜きに!!今日のこと一生忘れへんで」
 大袈裟すぎるまでの謝辞を述べた後、ラルは『ヴォルク』のキャノピーを閉じ、彼をおもむろに帰路につかせた。
 それから間もなく、閉門を知らせるチャイムが鳴り、沙希江は一人急いで教室に向かった………。
沙希江にはやっと時間の流れが元に戻ったような気がした。
 
 
 
  午前8時55分。
 MASHのハンガーの出入口の扉がゆっくりと開く。
 そこには『ヴォルク』が立っていた
 出入口の扉が開き切ると、それは静かにゆっくりと中へ鋼鉄の足を踏み入れた。
 そして、今朝までいた自分の指定席に戻ると、2本足の狼は降着姿勢をとり、パワーソースを次々にカットしていった。
 待機電力以外のパワーソースのカットを終えた時、安全装置が働いてキャノピーが開く……
 
 
 
 
 
 
中には静かに眠っている一人の少女が入っていた。
 



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