カタコンブを出て、曇り空の地表に顔を出した。
町並や動く車を見て、生の世界にほっとする。
地下をぐるぐる回ったため、方向感覚が無くなってしまった。
次の目的地のリュクサンブール公園への地下鉄の駅がわからない。
前の人について、とりあえずは広い通りに辿り着いた。
右か左か?「エイ、ヤー」とばかりに、左に向かって歩きだした。
歩きながらも、不安でならない。
妻は少し遅れて、地図と通りの名の看板を一致させるべく、手元を見たり、辺りを見回したり。
しかし、肝腎の看板が見当らない。
仏語は妻にお任せの私だが、「ものは試し」と前を歩くかっぷくのよい中年の男性に駆け寄り、
初めての仏語を使う。
「ムッシュ・シルブプレ(すみません、おじさん)」
振り向いてくれた。どきどきしながら続ける。
「ウ・エ・RER?」
「しまった、RERは仏語でどう発音するのかなあ?」
2〜3m後ろで、びっくりしている妻に確認してから向き直る。
茶色の格子縞のブレザー姿のムッシュは、にこにこしながら待っててくれる。
「ウ・エ・エル・エー・エル?(高速地下鉄はどこですか?)」
掌にアルファベットを書きながら尋ねる。
彼「メトロ?(普通の地下鉄?)」
私「ノン、エル・エー・エル」
彼「ムニャムニャ・・・(パリ市内に行くのか?それとも・・・)」
こうなると私の手に負えない。妻が助け船を出してくれた。
「ムニャムニャ、リュクサンブール」
彼はうなずいて前を指差し、この道の右手だと言う。
彼も同じ方向らしく、先に立って歩いてくれた。
すぐに見覚えのある駅前広場に出た。
彼は我々に手を上げて、来た道を後戻りしだした。
なんと、わざわざここまで案内してくれたのだ。
「メルシー、ムッシュ!」
聞こえるようにお礼を言った。
親切を受けるのは嬉しい。それに、私の仏語も少しは通じたみたいだし。
妻が教えてくれた。
「あの人、途中は英語をしゃべってたわよ。」
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