─ 仏教国人の強み ─
パリの南、高速地下鉄(RER)のダンフェール・ロシュロー駅を降りると、目の前の公園がカタコンブの入口だった。
「ものは試し」と、フランス国鉄の旅行者パスを見せると、入場券は半額になった。
9フラン60サンチーム。日本円で200円ちょっとだ。
石のらせん階段をぐるぐる回りながら、地下深く降りていく。
今度は水平に移動。岩がちの土がむきだしの通路が延々と続く。
「ひょっとして、この両側に埋め込まれているんだろうか?」
「これで終わったりして」
あまりに長過ぎる通路に、少し飽々していた。
さらに垂直に降りる。
2m四方にくりぬいた空間に、土でミニチュアの城郭が作られている。
「あの下に骨が埋まっているのかなあ?」
と、二人ともカタコンブに落胆して惰性で歩いている。
少し行くと、左手にエメラルドグリーンの水を湛えた井戸。前を歩くドイツ人らしきカップルにつられて、カメラをむける。
次の通路を直角に曲がって、息を飲んだ。
まるで薪が積み上げられているように、おびただしい人骨が積み上げられているのだ。
わずか1.5m程の通路の両脇に、天井にまで届く人骨の壁。
最上部と中央部には、恨めしげにポッカリ目を開けた頭骸骨がずらりと通行人を見ている。
所々にはどくろのマークに骨を組んでさえある。
大腿骨も頭骸骨も褐色。薄暗い裸電球に照らされて、その光景は恐ろしいというより、物凄い。
1880war、1920warとの石板が見える。戦死者の人骨の壁は延々と続く。
この光景にも慣れてき、カメラを向けようとして妻に止められた。
無縁仏にすがられるからと威され、手を合わせるのもだめだと言う。
先を行くカップルも会話は途絶えたままだ。そういえばフラッシュも見えなくなった。
輪廻転生の思想がしみついている我々東洋人と比べ、西欧の人達のショックは、よほど大きいのだろう。
「すげえ〜、すげえなあ」と言っているのは私だけ。
彼等は押しだまったまま、延々と続く人骨の壁の間を、もくもくと歩いていた。
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