学生時代、学生協の本屋で一冊の薄っぺらな画集と出会った。
シリーズ物の一冊で、"世紀末の幻想"と題された中には、100年前のルソー、ムンク、そしてモローの絵が載っていた。
"踊るサロメ""踊りの褒美に預言者ヨハネの首を求めるサロメ""ヨハネの生首を抱えて見つめるサロメ"そんなモローの絵のどれもが私にショックを与えた。
毎日昼休みになると、私はその画集を立ち見した。と言うよりサロメに会いに行ったのだ。
いつしかサロメに恋していた。
彼女が誰かに買われてしまわぬか不安がつのり、なけなしのこづかいをはたいてその画集を自分のものにした。
今回の準備で、"地球の歩き方"の中にモロー美術館の記事を見つけ、迷わず目的地に入れたのは言うまでもない。
私のパリでの目的地に辿り着き、大荷物を小さな受付に預け、恋しいサロメを探し求めた。
スケッチ集や小品の1階から2階へ。踊るサロメがいた。草上で集う貴婦人達がいた。
何百号の大キャンバスの中に彼女たちのひと筆ひと筆のタッチが見える。
鳥肌が立ってきた。本物はいい。
一番憧れの"ヨハネの生首を抱えて見つめるサロメ"を探したが見つからない。
2階にいた係員に「ウエ?」と言って、帽子を生首に見立てて仕草をすると、「イタリー」と返ってきた。
通じたが不安が残り、帰りに受付の画集をめくって絵を指しながら「ウエ?」と尋ねた。
今度は「ルーブル」と返ってきた。こっちが本当。前のは、ミレーの"落ち穂拾い"と間違えられたか。
[教訓]
・モロー美術館はグー。けど肝心の絵はやはりルーブル。
14, rue de la Rochefoucauld 最寄のメトロ駅:Trinite 開館時間:10:00〜12:45,14:00〜17:15
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