場所はムーランリュージュの角を北に入った所だが、ここからのメトロの路線はない。
地図と首っぴきで駅の西口を表に出た。
あたりは石造のゴシック建築が立ち並び、歩道沿いには駅前にありがちな商店が続く。
いかにもパリといった風情の通りを右へ左へ、大型のリュックをキャリアで牽きながら10分程歩いた。
メトロの駅を示す薄汚れた黄色いＭマークを見つけ、西に向かって地下を移動する。
ガイドブックにあるとおり、ムーランルージュ周辺は風俗街だ。
夜になったら華やかにネオンがともり、その筋の女性と男性が集まって来るであろう通りも店の看板も、埃をかぶって色褪せている。
しかし、この風俗街の通りから放射状に伸びた通りに一歩踏み入れると、そこは八百屋あり、肉屋あり、そうざい屋ありのパリの庶民の坂道が伸びていた。
坂をしばらく登った所のチーズ屋さんで、プリマ レピックの所在を尋ねる。担当は仏語の妻だ。
若い女子店員は
「名は知らぬが、もすこし登った左手にホテルがある」
と通りに出てきて示してくれた。
暮れかけた坂のむこうに赤いネオンが見えた。
