空港駅から普通列車で15分あまり、フランクフルトの駅に降り立った。ホームの屋根は映画に出てくるカマボコ型そのものだ。
「ああ、ヨーロッパだ!」
と瞳を輝かせ、二人で写真を撮りあう。
パリへ向かう特急列車は、最後尾にコンパートメント(個室車両)が2両。続いて見なれた座席車両。
指定をとってない我々は、無難そうな座席車両に、重い荷物を担ぎ上げた。ホームとデッキの差が1m近くもあるため、まさに担ぎ上げなければならない。
大型リュックは、出入口近くの荷物置き場の棚に押し込み、とりあえず、座席についた。オレンジ色の分厚いビニルレザー張りのシートである。
あとから入ってきた銀髪のおばさんが、座席の番号を確かめながら横を通り過ぎた。
急に不安になり、落ち着かなく、二人そろって立上った。
私は妻を残し、急いでホームに駅員を探した。
「あのう、座席指定を取ってないんですが、どこに座ったらいいでしょうか?」
かたことの英語でドイツ人の駅員に尋ねた。
「ん~、どこの車両でもいいですよ。」
流暢な英語の返事に少しだけ元気が出た。まだ座席に座れないでいる妻にその旨伝えた。
シートには、映画館のシートと同じく、てっぺんに前向きに番号が付いている。
ドヤドヤと仏語でわめきながら、テニスラケットを持った若者が15人程、前の車両からやってきた。
やはり、シートの番号を見ながら・・・・。
我々ともう一人の乗客を見て一旦は引上げた彼等が、引率の先生らしい人に伴われて、再びやってきた。
安心と不安が交互にやってくる。
彼の英語での説明によると、この車両はほとんどが、その団体で予約されているようだ。
そうと判れば他を探そう。指定のしくみが判らないのが、辛い。
既に動きだした列車の中をコンパートメントの車両に移り、ひとつひとつ覗いていく。
一つめは老夫婦、二つ目は若者と壮年5人位。三つ目は壮年の男性2人・・・。
全てのコンパートメントには、何かしらの先客がいるが、各々のドアの右上にかかった"Non Reserved"のカードが私を勇気づける。
老夫婦の所へおじゃまして話でもしようか、と考えていると、妻が、「コンパートメントがひとつ空いたよ。」
と急いで教えにきた。理由は判らぬが入ってしまえば我々が先客となる。
座席車両の荷物置場に残しておいた大型リュックも、我々の個室の網棚に載せて、やっと一息つく。
憧れのヨーロッパ特急のコンパートメントに、我々二人だけ!
今までの不安がうそのように消えて、リッチな気分になる。
駅で買ったわけのわからぬ缶ドリンクとキャンディー、機内食の残りのパンとクラッカーとチーズを取り出し、少し早いランチを広げる。窓の外にはヨーロッパの風景が流れていく。ドイツは大きな森の中。赤屋根に白壁の街並が包まれている。いい、実にいい。旅をしているぞ~との実感だ!
大阪を出てから30時間。第一の目的地のパリまで、あと6時間近くもかかるが、今、我々はヨーロッパの大地を走っているのだ。苦労は多そうだが、まあなんとかなるだろう。そんな気分である。
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