1.はじめての経験
いきなり30分待たされた。ヨーロッパ二人旅の出だしは、大阪空港搭乗口での時間つぶし。
近くに売店があるわけではなし。今にも搭乗案内のアナウンスがあるのではとの期待に、その場を離れられない乗客が、プラスチック製の待ちあい椅子を埋めている。
ようやく機内に乗り込んでからは、蒸し風呂のような最後尾席での、苛立ちがつづく。
機が滑走路へのアプローチへ向かったのは、昼を回った12:40頃だった。
しかし、動いたのは数十m。すぐに牽引車に引かれて、元のゲートについた。
そのまま待てと言われ、降りろと言われ、ランチを出すから乗れと言われ、半ば諦めと疲労にぐったりした我々を乗せ、16:00前にやっと大地を離れた。
眼下には大阪湾が見え、淡路島が見え、雲のなかで、いつのまにか眠っていた。
まだ耳に慣れてない英語の機長アナウンスで目が覚めた。
二人の乏しい英語力を総動員して理解した内容は、これから大阪空港に向かうとのこと。
冗談じゃない。我々が向かうのは乗り継ぎ地のシンガポールのはずだ。
なんでも、大阪へ引っ返し、エンジンか機体をかえて、再出発するらしい。
第3エンジン(右手前)の近くに座っていた乗客の話では、離陸して20分くらいの頃、突然「ボーン!」という音とともに、エンジンから煙が出たらしい。
すぐに乗務員が3〜4人飛んできて、彼等の座席に乗り出すように窓にへばりついて、ただならぬ様子で外を見るので、
「どうかしたのですか?」と尋ねると
「なんでもない。なんでもないですよ。」
その直後に、機長からの先程のアナウンスである。一瞬ざわついた機内は、なんでもないように落ち着いており、乗り継ぎの処置がどうなるかの心配話が聞こえる程度である。
淡路島が見え、大阪湾が見え、高度を下げた機体は気流の乱れにガタガタ揺れた。
窓から見える景色に、同じコンビナートの風景が繰返す。
大阪湾上空を旋回しているのだ。
着陸許可待ちかと思いながら、ふと翼の先の方を見ると、先端から白い煙が筋を引いている。(左写真)
とっさに、「燃料を捨てている!」と直感した。
さきほど食べたランチが、揺れる機体と恐怖感に、胃から逆流しそうになる。
生唾を呑み込みながら、早く着陸してくれることを祈った。
前方が下り、着陸態勢に入ったが、我々の見たものは、眼下の滑走路の両脇に並んだ消防車の放列。
赤いランプを点灯させて並んだ姿が、頼もしいというより、事の重大さを感じさせた。
無事帰還の空港の待ちあい室では、報道陣のフラッシュ!
幸い何事もなく、安全を第一に考えた航空会社に感謝し、差し回しの神戸ホテル・オオクラでのリッチな一夜にて、次の日の再出発に備えたのだった。
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