バンフのバスディポの待合ベンチで悩んでいた。
ここバンフまでは、グレイハウンドバスのクーポンが使えるが、さて、ここから南北500kmもある広大な国立公園を回る交通手段がない。ツアーバスはあるにはあるが、本数と料金から、貧乏学生旅行には手の届かない代物だ。来る時の飛行機で隣にいた女性が、
「ジャスパーの知り合いの所へ行く」と言っていたが、どうやって行ったのだろうか・・・。
そんなとき、バンクーバーから一緒のバスだった大分出身の社会人の彼が、声をかけてきた。
布施明を渋くしたような30才位の男性で、一人旅には不似合いな大きなスーツケースを転がしている。
彼の提案は、仲間を集めて協同でレンタカーを借り、ジャスパーへ向かおうというものだ。
小生が国際免許を持っていることから、話はとんとん拍子に進み、医大生1名も加わり、即席の3人のツアーグループが結成された。
当日はバンフのロッジに泊まる。ロッジといっても荷物は外の錠前付き木箱へ管理人立会いで保管。
通された広い部屋には、黒いパイプの2段ベッドが隙間なく並んでいる。寝具は無い。どうやら山登りや本格派バックパッカー専用の宿である。寝袋や毛布を持たない小生は、少ないありったけの夏服を着込んで、半袖の腕にはバミューダーを通して、背を丸めて寝た。寒かった。
明け方、隣の「メイビー」が口癖でいけ好かない日本人野郎が、自分の毛布をかけてくれた。すごくありがたかった。
夜は布施さんのおごりで、バンフ繁華街の大橋巨泉OKショップの近くにある飲み屋へ2人で出かけた。バドの小瓶とつまみを注文し、料金とチップを渡す布施さんが眩しく見えた。
栓抜きを借りようとする小生に、
「こちらのビール瓶の王冠はこうやるんだ」と、回して開ける方法も彼に教わる。
大阪の会社を辞めて来ており、「カナディアンロッキーの東に広がるサスカツーンの広い小麦農園で働きたい」との話に、不安とロマンを感じた。