第56回日曜講習会報告書

2017年7月2日(日)に東京女子医科大学 第一臨床講堂を会場として関東神経生理検査技術研究会主催の第56回日曜講習会を開催いたしました。

以下に各先生方のご講演内容を簡単にまとめ報告いたします。

 

 

1) 脳死判定に関わる神経生理検査のヒント

日本医科大学附属多摩永山病院  久保田 稔 先生

日本医科大学多摩永山病院の久保田稔先生に「脳死判定に関わる神経生理検査のヒント」というテーマでご講演いただきました。

脳死とは、脳全体としての機能が不可逆的に消失した状態であるとされています。

脳死という概念がなかった従来は、低体温・低血圧。尿崩症、無呼吸を呈する超昏睡と表現されていました。海外では脳幹死とされますが、日本では脳波を記録し、いわゆるフラット脳波の記録をもって全脳死としています。

脳波記録にあたっては、慎重に行うことが必須であり、脳死判定の基準に準じて行います。

以下、ポイントを簡潔に記します。

・内部雑音を超える脳由来の波がないことを確認する。

→1.2mmを超える波がないことを確認。

*筋電図混入があれば、筋弛緩剤を使用し記録するのも判定に役立つ。

・最低4誘導以上の誘導で記録。

・電極間距離を大人は7cm以上、子供は5cm以上あけて記録。

・感度は2.5uV/mm 以上(4倍)の高感度で記録。

・フィルターも必要であれば使ってOK (ただしLow cutフィルターはX)

 

脳死ではない例

自発呼吸が認められず、JCS300、嚥下反射(-)、瞳孔反射(-)といった状態の場合、脳死であることが示唆されますが、ABR、脳波記録で脳波が認められ、脳死ではなかった例がある。鎮静剤や麻酔薬によりフラット脳波を呈する場合がある。ABRも併用し判断します。

 

今回の講義では、法的脳死判定全体について再確認する良い機会になりました。

臨床検査技師が行うものは脳波(と補助的検査であるABR)であり、法的脳死判定のなかの一項目だけです。

ですが「脳幹反射の消失などは医師が眼で見て判断する主観的なものであるのに対し、脳波は記録が残るため、問題として取り上げられやすいです。

実際に携わる機会がなくても、普段から意識レベルの低下した患者に対し、脳死判定に準じた方法で測定をおこなっていくと、立ち合いの際にもスムーズに進められるのではと思います。マニュアルやフローチャートなどの作成、見直し等、行いたいと思います。

 

 

 

 

2) SEP検査の臨床応用

九州保健福祉大学  所司 睦文 先生

九州保健福祉大学の所司睦文先生に「SEP検査の臨床応用」というテーマでご講演いただきました。

前回に続きSEP検査についてお話いただきましたが、今回は臨床応用編ということで、大変分かりやすく解説いただきました。

●電気刺激と興奮発生

SEPを記録するとき、刺激電極を、中枢側を(陰極)、末梢側を(陽極)にして記録します。

通常、軸索は陰性荷電していますが電気刺激の陰性直下では、軸索のNaチャネルが開き、Naイオンが細胞外から細胞内へ流入することで活動電位が発生します。

発生した活動電位は軸索内を水平方向に流れることで活動電位が両方向に伝達されます。しかし刺激電極の陽性電極直下では、刺激の陽性電位と膜電位の陰性電位で安定のかたちをとり、Naチャネルは開かないので、興奮伝導しにくいといわれています。

したがって、刺激をする時は、陰極を神経上、陽極を神経からすこし外して装着すると理想的な刺激が出来るとのことです。

●SEP適応疾患

SEPは感覚神経のレベル診断が可能です。

「末梢神経障害」

・糖尿病性神経障害などの脱髄疾患

EP、N11、N13、N20の各潜時の延長がみられますが、EPからN20の頂点間潜時にさほど遅れは見られません。

EP、N11、N13、N20すべての波形が出力されない場合は、刺激が正しく出力されているか確認します。刺激出力に問題がない場合、感覚神経伝導検査をおこない、末梢神経障害の程度を判断してください。

・軸索変性

軽度であれば、正常パターンの場合が多い。やや進行してくると、EP、N11、N13、N20の振幅のみ低下します。潜時は保たれていることが多いです。さらに変性が進むと、二次性の髄鞘障害による脱髄が生じ、振幅のみならず、各潜時も延長します。

・神経再生・再生髄鞘の新生

再生髄鞘の新生では、髄鞘のかたちや大きさにバラツキがあるため、伝導にもバラツキが発生します。

・不思議な末梢神経障害:N20のみ記録されるパターン

同時に複数シナプスから情報入力(空間的加重)・短時間に連続的な情報入力(時間的加重)により加重的に膜電位が上昇することでN20だけ出現します。

このような場合は感覚神経伝導検査で多くの場合no responseとなることが多いです。

「脊髄障害」

脊髄に入るレベルが、正中神経ではC5?Th1、尺骨神経ではC8?Th1となっています。例えば、C8-Thiレベルの障害の場合、正中神経SEPでは正常パターンを示し、尺骨神経SEPではEPのみ記録されるパターンとなり解離が見られます。

このように正中神経SEPの他に尺骨神経SEPを併用することで、障害レベルの診断が可能になります。

「脳幹障害」

脳死判定では刺激と同側の手の感覚野と第2頚椎棘突起との導出でN18を記録し脳幹障害を判定します。

「大脳皮質障害」

例えば脳梗塞の場合、患側半球でのN20が低振幅となるか誘発されません。低振幅に記録されたN20について、あえてマークをつけないことが大切です(技師レベルでは判断できません、というメッセージとなります)。

SEP出現の有無の推定として、手を握ってもらう、足を触って左右に同じように感じるかどうか?患者に聞き、感覚があれば、SEPは誘発される場合が多く、左右差がある場合にはSEPの記録にも動揺に反映されることがあるので、検査前に試してみると良いとのことでした。大脳皮質の機能局在や血管支配領域を把握することが大切とのことでした。

●皮質SEP

巨大SEPを記録する場合、巨大成分が後半部分に出現することがあるので、分析時間を100msec程度に延ばし記録すると良いとのことでした。

今回は波形の評価など臨床応用について大変分かりやすくお話いただきました。

 

 

3) てんかん患児のビデオ脳波同時記録検査

東京女子医科大学 小児科  伊藤 進  先生

東京女子医科大学 小児科 伊藤 進 先生に「てんかん患児のビデオ脳波同時記録検査」というテーマでご講演いただきました。

2017年3月に国際抗てんかん連盟はてんかん分類および発作型分類を改訂しました。今回は、新たな発作型分類に基づくてんかん患児の発作時ビデオ脳波を提示いただき、大変分かりやすく解説していただきました。

●てんかん分類の枠組み

てんかんは以下のように分類されます。

焦点性起始 全般性起始 起始不明

意識障害なし 意識障害あり 運動性 運動性 (1)強直間代  強直間代

運動性起始 (2)間代 (3)強直  スパズム

自動症、脱力、間代、スパズム、過運動、ミオクロニー、強直 (4)ミオクロニー

非運動性 (5)ミオクロニー強直間代  動作停止 (6)ミオクロニー脱力

非運動性起始 (7)脱力 分類不能

自律神経性、動作停止、認知性、感情性、感覚性 (8)スパズム

非運動性(欠神) (1)定型  (2)非定型

焦点性からの両側強直間代 (3)ミオクロニー (4)眼瞼ミオクロニア

*全般性:右脳と左脳の同時にはじまるもの。(「脳全体が一気に巻き込まれる」いう意味ではない)

*焦点性:右脳または左脳のどちらかからはじまるもの。

●「全般性」「運動性」

(1)全般性強直間代発作→ 一般的に「痙攣」と呼ばれるもの。

脳波では、全般性の左右対称性の棘徐波複合が出現、臨床発作に移行し、脳波全体が筋放電で判読が困難となったあと、後カクカクとした間欠的な筋放電がみられる間代けいれんとなり、最後は終結し抑制的な脳波となる、といった流れをとる。

一次性か二次性かは、ビデオだけではわからず、脳波を判読することで診断がつく。

(2)全般性間代発作(例:ミオクロニー失立(脱力)発作てんかん)

純粋な間代発作のみのてんかんは まれで、小児の場合はミオクロニー症候群を疑う。

(3)全般性強直発作(レノックス・ガストー)

突然 体幹に力が入り、強直が始まる。レノックスガストーで必ずみられる発作。

(4)ミオクロニー発作(例:乳児(良性)ミオクロニーてんかん、若年性ミオクロニーてんかん)

覚醒時に、一瞬の筋のピクツキが起きる(睡眠時に起きるのは生理的なもので正常)。朝、ご飯を食べているとき茶碗を落とす等で気づかれることが多い。

(6)ミオクロニー脱力発作(例:ミオクロニー脱力(失立)発作てんかん*過去にはDOSE症候群とよばれたてんかん)

筋のピクツキのあと脱力がみられる。筋電図では筋放電の後、筋放電の途絶がみられる。屈曲筋優位のため、前方に倒れる。

*ミオクロニー発作(ピクツキだけ)との鑑別はビデオだけではなく筋電図で鑑別する。

治療方法が異なるので注意を要する!

(7)脱力発作(例:ミオクロニー脱力(失立)発作てんかん)

重心のかかった方に倒れることが特徴。

筋電図では筋放電が途絶するのみ(しかし真の脱力発作のみは比較的まれ)。

(8)スパズム(例:ウエスト症候群)

脳波での診断は困難である。足と頭が屈曲し拝むような発作が間欠的にみられる(シリーズ形成)不自然で間欠的な筋放電が認められたら、ウエスト症候群を疑う。発症後一か月以内の治療開始が望まれる。見逃してはいけないてんかんの一つ。

●「全般性」「非運動性」→ 欠神

(1)定型(例:欠神発作)

3Hzの全般性棘徐波複合が前頭部優位に認められ、3秒以上続くと発作に至る。

(2)非定型(レノックス・ガストー症候群)

臨床発作がわかりにくい。脳波で2.5Hz未満の全般性棘徐波複合の出現で診断。 

 

●焦点性

*以前は「部分てんかん」とよばれていたが、焦点 という呼び方に統一された

*強直発作、間代発作という用語は焦点性起始でも使われるようになった。

*意識障害の有無は子供の場合判断が難しいが、その場で返事ができるかどうか?のみならず、後で思い出せるかどうか?というのも、判断材料になる。

*体幹に近い近位側を動かす場合→過運動発作、遠位側(手先等)動かす→自動症と区別。

(1)「焦点性」「意識障害あり」「運動起始」「間代」(例:ローランド発作)

中心・側頭部に棘波を示す良性てんかん(BECTS)

顔面と、上肢の間代発作、また喉を鳴らすのが特徴。

棘(鋭)徐波の特徴は、徐波が棘(鋭)波 を超えない(徐波が低振幅)。

(2)「焦点性」「意識障害なし」「運動性起始」「強直」(例:前頭葉てんかん)

上肢の力が入り屈曲・強直となる。手のカタチが特徴的な「ジストニーC」がみられる。

(3)「焦点性」「意識障害不明」「運動性起始」「過運動」(過運動発作 例:前頭葉てんかん)

夜寝ているときに突然暴れるということで、寝ぼけと間違われやすい。家族内発症がある。

(4)「焦点性」「意識障害あり」「運動性起始」「自動症」(例:側頭葉てんかん)

従来の複雑部分発作。自動症として 発作時発語、発作時唾吐き

*右利きの場合、優位半球は左であることが多い。→したがって言語野も左。発作時に発語があれば、発作は右の側頭葉が起始する側頭葉てんかんを示唆する。

自動症は時に、発作と同側に出現する。これも局在判定の判断材料となる。

(5)「焦点性」「意識障害なし」「非運動性起始」「感覚性」(例:頭頂葉てんかん)

体性感覚前兆。前兆も発作と扱う。

*前兆と発作の使い分け

傍から見て症状が発生していない→前兆、症状が出現している→発作

(6)多彩な症状がある場合、てんかんではない場合が多い。ビデオ記録が参考になる。

心因性非てんかん発作(PNES)

2017年に改訂されたてんかん分類のビデオ脳波を交えたわかりやすい講義でした。

しばらくは従来の分類と混同してしまいそうですが、習得を目指したいです。

 

 

 

 

4) 患者さんにやさしい脳腫瘍手術(2) 術中モニタリング

日本医科大学付属病院 脳神経外科地域医療システム学講座

教授  山口 文雄 先生

日本医科大学付属病院 脳神経外科地域医療システム学講座 教授 山口 文雄 先生には、「患者さんにやさしい脳腫瘍手術A 術中モニタリング」というテーマでご講演いただきました。

山口先生には、「患者さんにやさしい脳腫瘍手術」というテーマで前回に続き、お話いただいておりますが、今回は第2回目です。

実際に日本医科大学付属病院で行われている術中マッピングをはじめとする術中モニタリングについて、測定用誘発筋電計の設定や、使用する電極、モニタリングの手順等をわかりやすくご紹介いただきました。

夜間等、緊急に手術を行うことになったときの術中モニターや、モニタリング担当の臨床検査技師が業務を行えない場合に、誰でも誘発筋電計の操作がわかるような簡潔にまとめられた操作方法を記した、マニュアルもご紹介されておりました。

先生がご自身で開発・特許を取得された、白質内を刺激する際に使用される電極は独自の工夫が施されてあることがわかります。例えば、電錐体路付近の腫瘍摘出の際に、白質内を電気刺激して筋電図誘発の出現を観察しますが、同時に、腫瘍と錐体路までの距離が把握できるよう、メモリが設けられており、効率よく手術をおこなえるよう工夫されております。

この電極は、全国の施設において、脳神経外科の手術で使用されております。

今回は、テクニカル的なことに重きをおいてご講演いただきました。手術を行う際に使用する様々な手術支援システムの駆使、必要充分な術中モニタリングのセッティングについて改めて理解することができました。腫瘍摘出というゴールまでを、安全で機能不全を生じない完全なものとすることで、結果的「患者さんにやさしい」手術となることに納得しました。手術の進行状況や、モニタリングの設定は各施設異なるとは思いますが、先生が実際におこなわれている様々な工夫を、今回学び取ることができたのではないでしょうか。

日頃、術中モニタリングに関わる臨床検査技師として、大変興味深い講演内容でした。明日から早速参考させていただこうと思います。

 

 

 

 

 

 

むすびにかえて

 

2017年7月2日(日)東京、

「暑い夏がやってきた」と実感できるような晴天でした。

しかし、8月は曇りや雨も多い日が続き、駆け足で秋が訪れました。

 

次回は第57回日曜講習会です。2018年1月28日(日)開催予定です。会員の皆様に役立つであろう基礎から臨床まで幅広い企画を考えておりますので、是非、奮ってご参加下さい。