過呼吸賦活試験

 

【ポイント】

1. 過呼吸賦活試験の賦活効果としては、突発性異常波の出現または増強、または、広汎性もしくは局在性徐波の出現または増強があげられます。

a. 過呼吸賦活試験において特に重要な突発性異常波は、欠神発作(てんかん)の症例で出現する3Hz spike & slow wave complexであり、多くの場合、臨床的にも意識消失発作を起こします。

なお、複雑部分発作のtemporal spikeは過呼吸賦活試験によって賦活されることはまずありません。

b. 非突発性徐波として特に重要なものはbuild upです。過呼吸を2〜3分継続すると小児の大多数、または、成人の一部で脳波の徐波化と振幅の増大を示します。これは、健常人においても観察されます。

2. 脳血管障害(特に、もやもや病)などにも過呼吸賦活試験は有効です。

3. 患者に呼気中心に深呼吸を行なわせる様に指導することが大切です。

 

 

 【賦活試験の意義】

build upの出現機序の考え方としては以下の通りです。

 

呼気中心の深呼吸(過呼吸)を行なうことによって、

(1) 血液中のCO2濃度が低下(acapnia)し呼吸性アルカローシスとなります。

(2) 血液が呼吸性アルカローシスに変化するとホメオスターシス(恒常性)によって脳血管が収縮します。

一般に、脳卒中、血栓、脳腫瘍などの患者においてはホメオスターシスの働きが悪いのでbuild upが出現しやすいそうです。

(3) 脳血管が収縮すると脳の循環血液量が減少します。

血管に梗塞とか血栓などが存在すると循環血液量が減少は一段と著明になると考えられています。

(4) 脳の循環血液量が減少すると血管周辺の神経細胞が虚血になります。

(5) 神経細胞が虚血になれば、神経細胞は機能は低下します。

過呼吸による脳波の徐液化の成因は2次的無酸素症または低炭酸ガス症などに起因すると考えられています。

(6) この神経細胞は機能は低下を代償できれば脳波上build upは観られませんが、脳が未成熟であったり(幼小児や学童)、代償能力が低下していれば脳波上build upが出現します。

 

 

【方法の1例】

1. 脳波記録を中断し、患者に過呼吸賦活試験の説明をします

過呼吸賦活試験に際して、HVユニットを使用すると教示しやすく、一定のスピードで過呼吸できる利点があるので、有利です。

1) 2秒に1回の割合で呼気中心の深呼吸を3分間続けることになります。

2) 患者に直接声を掛けて過呼吸の練習をしましょう。

3) 閉眼状態を維持しながら過呼吸を行います。過呼吸開始の合図の後も、終了後も閉眼状態を維持するように患者に教示しておくことが大切です。

2. 患者が閉眼状態であることを確認し、過呼吸賦活試験の記録を開始しましょう。

過呼吸賦活試験開始前の脳波は少なくとも30秒間以上記録しましょう。また、HVユニットを使用しない場合は、呼気に合わせてマーカーを入れる様にすると、患者の呼吸状態のある程度の把握が判定時に可能になります。

また、過呼吸開始時、および、その後30秒ごと、また、過呼吸終了時、終了後の30秒毎にチェックラインを引き、それぞれの時間を記録すると過呼吸賦活試験の判定が有利になります。

4. 過呼吸開始から3分間が過ぎたら、直ちに普通の呼吸に戻ることともうしばらく脳波記録は続けるので閉眼状態を維持することを患者に伝えましょう。もちろん、脳波記録は中止せず、過呼吸実施時間に相当する時間(一般には3分間)は脳波記録を継続しましょう。

5. 過呼吸賦活試験中になんらかの脳波変化(例えば、build up)がみられた場合には、過呼吸実施前の脳波像に戻るまで記録を継続しましょう(脳波変化が消失するまで記録します)。

 

< 幼小児に対する工夫 >

1. 光刺激用のストロボスコープに紙やティッシュなどを貼り付け、それを患者の口元の近くに固定しましょう。

2. その上で、掛け声をかけたり、音刺激の刺激音に一致させたりして、患者に紙やティッシュを吹かせながら過呼吸を施行しましょう。

※ HVの練習をしすぎると早期からbuild upを起こさせる原因になるので注意が必要です。

 

 

【注意・備考】

1. 過呼吸賦活試験には禁忌があります。

1) 急性期の心筋梗塞、脳血管障害、重症肝疾患、重症肺疾患、動脈瘤等々、HVにより重篤な症状が現われそうな場合は過呼吸賦活試験を実施してはいけません。

2) 判断に苦しむ時は依頼医に連絡し指示を受けましょう。

2. 過呼吸終了後の患者には細心の注意を払いましょう。

○ 「深呼吸終了です。普通の呼吸に戻って下さい」という指示に従わず、過呼吸を続けている患者も時にいます。十分に確認しましょう。

○ 時に、しびれ感やおう吐感をもつ患者もいます。よく観察しましょう。

 

3. 初回の失神発作の患者で3分間の過呼吸賦活試験で発作波が誘発されない場合や依頼医の施行指示があった場合には、過呼吸賦活試験の実施時間を3分間から4〜6分間に延長しましょう。

当然のことですが、被験者の協力を得て現行法、つまり3分間の過呼吸の範囲内で最大限の賦活効果をあげる様に努力することが大切です。

4. 過呼吸賦活試験の実施中は、特に、被験者の身体の動き(特に頭部)や筋電図に起因するartifactsが入らない様に適切な指示を与えることが大切です。

5. 過呼吸賦活試験により小児(特に10才以下)の大多数や成人の一部には脳波の徐波化と振幅の増大を示す場合があります。これはbuild upと呼ばれます。

a. 過呼吸の賦活効果判定時には年齢を考慮しましょう。

b. 過呼吸における徐波の出現は一般に種々のてんかんや脳に器質的異常がある場合に顕著となります。

c. 成人の場合、過呼吸賦活試験に伴う顕著な高振幅徐波化は異常所見となります。

d. 健常者では、たとえ過呼吸賦活試験で多少徐波が出現しても、中止後は急速に徐波が消失し、30秒以内に過呼吸前の波形に戻るのが一般的です。

e. build upが過呼吸中止後30秒以上持続する場合は異常所見となります。

f. 過呼吸賦活試験に伴う徐波の出現は、一般に前頭部、頭項部などに著明で、後頭部では比較的目立ちません。また、徐波の出現に著しい左右差や局在性出現がある場合には、徐波が広汎性に出現している場合に比べて、それが異常波である可能性が高いといわれています。

g. 低血糖、低酸素、高体温、高気圧などがbuild upを促進すると言われています。特に被験者が空腹の場合はbuild upしやすいので注意が必要です。

6. 欠神発作と過呼吸賦活試験

10秒前後の意識消失を主徴とするてんかんで、発作時に高振幅の3Hz spike & slow wave complexが、広汎性に出現します。大多数の場合、脳波上の発作波の出現に伴い臨床発作(意識消失発作)を起こしていますので、脳波記録中に意識状態の確認が必要です。

【対応】

1) 患者の様子(特に、眼、口、四肢など)を詳細に観察し、脳波記録紙に逐次記録しておきましょう。

2) 3Hz spike & slow wave complexが出現したら患者の意識状態の確認しましょう。

3Hz spike & slow wave complexが出現しはじめたら、呼名や開眼指示などをおこない患者の反応を確認する事によって、意識消失の有無を判定しましょう。

3) 意識消失が認められた場合には、発作波消失後、同様の指示を患者に与え、指示に従えることを確認しましょう。

4) 臨床発作が頻発し、過呼吸賦活試験の続行が不可能な場合は過呼吸を中止しましょう。

※ 臨床検査技師のみで対応困難な場合は迷わず依頼医の指示を受けてください。

7. もやもや病と過呼吸賦活試験

脳血管造影写真で脳底部に異常網状血管像を呈する疾患です。もやもや病では過呼吸中のbuild upが過呼吸終了によりいったん消失した後に、十数秒たって再びbuild upが起こります。これはre-build upと呼ばれます。麻痺を伴う場合もあります。ま、突発性異常波が出現する場合もあります。過呼吸賦活試験後に急速な徐波化や意識障害発作に移行する症例もありますので注意が必要です。
【対応】

1) 意識消失の有無を呼名や開眼指示などで確認しましょう。

2) 麻痺の有無を確認しましょう。具体的には、左右別々に掌を握らせたり、四肢を動かすように指示を与える。患者の自覚的な感覚の状態も聞いておくと有利です。

3) 脳波変化が消失するまで脳波記録は継続しましょう。

※ 臨床検査技師のみで対応困難な場合は迷わず依頼医の指示を受けてください。

8. HVsyndromeと過呼吸賦活試験

神経症やヒステリーなどの患者で過呼吸が止まらなくなることがあります。

【対応】

1) ビニール袋や紙袋を口にあてがいましょう(呼出した空気を再び吸わせるためです)。

2) 心因性の場合が多いので、患者に安心感を与えるよう努力しましょう。

3) 可能であれば、呼吸が落ち着くまで脳波記録は継続しましょう。

※ 臨床検査技師のみで対応困難な場合は迷わず依頼医の指示を受けてください。