Anterior Bradyrhythmia  - AB -

会報第7号より

 

Anterior Bradyrhythmia(以下AB)はGibbs and Gibbs(1964)によって命名された前方に突発する徐波律動です。

前方に突発する徐波律動には他に覚醒時、前頭優位に間欠的に出現する単律動徐波であるFrontal intermittent rhythmic delta activity(以下FIRDA)があります。

しかし、FIRDAに関する研究報告が多いのに対して、ABについてのものは極めて少なく一般には知られていません。

Gibbs and Gibbs(1964)の記載よると「ABは前頭から頭頂にかけて突発する2〜5Hzの徐波律動で、通常、覚醒時に出現し、傾眠で増加、睡眠で消失し、ほぼ成人にかぎって出現する異常波形で、ABが出現する主な疾患は脳血管障害で腫瘍は少なく、けいれんの既往をもつ症例が多いがspikeなどのてんかん性の波形は伴わない」としています。

ABに関するその後の報告としては、1982年にNiedermeyerがElectroencephalographyの中で、「老人に時折みられる両前頭に連続して出現するδ帯域の徐波(多くの場合は1.5〜2.5Hz)で、やや律動的ではあるが厳密に言えば単律動的ではない。前頭部に限局することが多いが、中心部あるいは前倒頭部に波及することもある。振幅は高振幅で2〜10秒間持続する。ほとんどの場合、入眠期あるいは軽睡眠期にみられる」と記載しています。

1983年にKatz and Horowitzは正常な老人において入眠時にかなり高率に(16%)間欠的な前頭のδ波が出現することを報告しています。彼らはこのδ波の連続を本来のFIRDAと区別するために、sleep onset FIRDAという表現を用い、病的な意義に乏しく過大な診断に注意すぺきとしています。内容からはABに近いものと思われますが、残念なことにABとの関連には言及していません。

1985年にZurekらはABをFIRDAと対比させて、出現時期や律動性及び波形の形態などの相違を指摘し、その中でABを種々の律動性を示す間欠的な前頭部のδ波の連続で、周波数は1〜2.5Hz、振幅は中〜高振幅で50〜2OOμVと定義しています。「前頭極あるいは前頭部に最も明らかであるが他の部位に波及してもよい。覚醒時には検出されないが、入眠時あるいは睡眠中にもみられ、覚醒刺激に関連して出現することがある」と述べています。またABの出現する症例はFIRDAよりも高齢で70〜80歳代が50%以上を占めており、脳血管障害患者に多く、高齢者の軽症な脳血管障害の表現でarousalなmechanismsが関与していると推定しています。

本邦では脳波筋電図用語辞典(永井書店1985年)のFIRDAの項でABはFIRDAと鑑別すべき波形として記載されています。本書によると「FIRDAは覚醒時、前頭極優位に出現し、1.5〜2Hzのδ波であるが、ABは軽〜中等度睡眠期にみられ、覚醒刺激に関連して出現する。前頭極、前頭部にみられ、FIRDAより周波数の遅いものを合む1〜2(2.5)Hz」とし、Zurekらの定義に準じた表現をしています。

以上のようにABの定義は年代を追ってやや予変化しており、特に睡眠と関係して、出現時期や覚醒刺激との関連が研究者により異なり、Gibbs and Gibbsの最初の記載と必ずしも一致しない部分がみられることは注目すべきであると考えています。

 

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北里大学病院における過去2年間の脳波記録の中でAnterior Bradyrhythmia(AB)が出現した症例31例を対象に分析した結果について述べます。ABの診断はNiedemeyer(1981)の定義に準拠しました。

31例の内訳は男性17例、女性14例、平均63.1歳(31〜82歳)でした。原疾患は脳血管障害16例(くも腹下出血7例・脳梗塞6例・脳出血1例・頚動脈海綿静脈洞痩1例・上矢状静脈洞血栓症1例)、腫瘍5例(原発性脳腫瘍4例・転移性脳腫瘍1例)、外傷3例(脳挫傷および頭蓋底骨折1例・多発骨折1例・慢性硬膜下血腫1例)、脳炎1例、てんかん1例、代謝性疾患4例(MELAS1例・腎不全2例・高Ca血症1例)、その他5例(痴呆および夜間譫妄3例・膀胱腫瘍2例)で、脳血管障害が半数以上を占め、他の報告とよく一致していますが、詳細に分析すると病態の異なるものが多く合まれているのに対し、代謝性疾患は意外に少なく、全体として疾患特異性に欠けるが器質性疾患を有するものが多いことがわかります。ABが認められた症例の神経症候をみると、31例のうち8例はAB出現時に神経学的に無症候で、23例に神経症侯を認めました。最も多かったのは痙攣で9例、次いで意識障害(意識レベル低下・意識変容)8例、片麻痺7例、半身の感覚障害2例、痴呆2例、健忘1例、脳神経症状1例、周期性四肢麻痺1例、歩行障害1例と、局所徴候を示さないものが大部分でした。また、経過を追った症例では、神経症侯が消失した後も繰り返しABが認められることが多かったです。ABが認められた症例の基礎律動は8Hz前後のs1owαが多く、ABが出現した時期はStage-1が18例、Stage-2が13例で、前者は平均年齢66.6±9.O歳と後者の58.6土12.5歳に比べ、有意に高齢でした。また、前者の平均基礎律動は8.2土O.9Hzと後者の8.7±1.1Hzに比べて遅い傾向がみられました。31例中27例は覚醒反応として、すなわち自発あるいは刺激により覚醒する過程でABが出現しており、覚醒反応と無関係にのみABが出現したのは4例に過ぎませんでした。

 

 meningioma(64歳,女性)

 

 cerebral infarction(73歳,男性)

 

Niedemeyerは1993年度版のElectroenMphalography(3rd ed.)の中でABの病的な意義や発現の詳細な機序は未だに解明されていないとしながらも、ABのtriggerはmildな覚醒刺激によるものと推定し、感染、外傷または軽症な脳血管障害に起因する、老人における健康状態の悪化を反映しうるものかもしれないと推論しています。今後はABの定義を明確にした上で、この波形の診断的意義を再検討する必要があると思われました。

<本文:北里大学病院 吉本紅子>

 

 

文献

1) Gibbs FA and Gibbs EL:Atlasofelectroencephalographr.Vo13.Addision-Wesley Reading Mass,1964,p24-25

2) 堀浩、下河内稔、西浦信宏他:脳波・筋電図用語事典、永井書店、大阪、1991

3)  Katz RI and Horowitz GR:S1eep-onset frontal rhythmic slowing in anormal geriatric population.Electroenceph Clin Neurophysiol.56:27p,1983

4) Niedermeyer E and Ldpes da Silva E:ElectroencephaIography(3rd ed.).Urban & Schwarzenberg,Ba1timore-Munich,1982,P258-259

5) Niedermeyer E and Lopes da Silva E:Electroencephalography.Williams & Wilkins,Baltimore,1993,p331

6) Zurek R,Delgado JS,Froescher W and Niedemeyer E:Frontal intemittent rhythmical delta activity and anterior bradyrhythmia.C1in Electroenceph.16:1-10.1985