Webセミナー
高齢者脳波の記録法
- 高齢者の脳波はこう撮らないと解らない -
特定医療法人社団青山会青木病院検査課  末永 和栄

 

 

1. はじめに

 

高齢者脳波を成書や教科書で見ると必ずと言ってよいほど大友英一1974を引用して、基礎波の徐波化、速波の増加、振幅の低下、発作波の減少、賦活効果の減少、diffuse α(60歳以上の20%に出現)等が書かれているが、高齢者の脳波をとると千差万別で60歳代、70歳代、80歳代での特徴的な波形は無い。しかし、高齢になるに連れて出現率が増加する波形(下記の(1)〜(7))は高齢者の脳波と言って間違いないと思われる。

その高齢者の脳波が成書や教科書に書かれていないのには決定的な理由がある。その理由とは、1)耳朶の活性化:優位部位が側頭部であるため耳朶に波及して、通常の同側基準導出では相殺されて見逃されている。2)耳朶が活性化していない波形では出現率が比較的低いので臨床研究が少ない。

高齢者脳波については松浦雅人先生が高齢者の脳波の読み方(1〜5)、臨床脳波Vol.45. no7~11, 2003にまとめられているので参照されたい。

 

 

2. これが高齢者脳波

 

記録のポイント

T3−T4、A1−A2誘導を追加して下記の(1)〜(4)が記録されたら、リファレンス選択をAVかSDに替えてみる。

【耳朶に波及する波形】

(1) カッパ(κ)律動 

6〜12Hzのα波様波形でT3、T4優位であり、後頭部のα波とは独立して出現する。左右で位相が逆転しているためT3-T4の誘導で振幅が最も高い。暗算等で増加すると言われていたが、演者らが追試したところでは増加しなかった。開眼や睡眠で消失しない。出現率は60才代の精神疾患の被検者の約40%に認められた。しかし、全被検者440名の出現率では21%だった。KennedyJLらは正常人の30%に見られたとしたが、被検者の年齢層の記載がなかった。本律動は耳朶に波及して基準電極を活性化させるため、入眠潜時の判定に影響した(図1)。

 

(2) Wichet spike(ウイケット棘波)

一側(特に左)ないし両側の中側頭部〜前側頭部優位に出現する比較的高振幅の6〜11Hz(6Hz優位)の律動で、アーチ型のμ律動様波形("Wicket"とは、くぐり戸、格子窓の意味)で極めて短い律動波として出現すると孤立性の棘波や鋭波に見えることがあり、てんかん性突発波と間違われることがあるので要注意である。覚醒や睡眠S1、S2に出現し、特に傾眠時に出現します。てんかんとの関連は否定的ですがてんかんにも認められる(図2)。

 

(3) Temporal slow waves of the elderly(TSE:側頭部間欠性徐波)

Silvermannは60歳以上の健康人400人の35%に認めたとし、赤松は産業医科大学病院で脳波検査を行った40歳以上で75例の内36例48%(平均年齢61才)に見られたとし、θ波が30例、δ波が22例に見られ、出現部位は両側81%、左側13%、右側6%だった。MRIで何らかの病変が認められたのは39例52%だった。

本波形にはθ波とδ波があるが、 θ波はκ律動と重なるので演者はδ波のみを対象とした。優位部位はF7、T3かF8、T4もしくは両側性である(図3)。

 

(4) Temporal minor slow and sharp activity:TMSSA

側頭および前側頭部を中心に出現する、低振幅の8〜14Hz活動に中等振幅の2〜7Hz活動が混合した、鋭い成分を伴う脳波パターンと定義され、村田らは精神神経科領域で4.7%に見られ、40歳以上で出現率が急増し、wicket spikeよりも出現率がかなり高いと報告している。本律動は(1)、(2)、(3)が混ざり合った波形である(図4)。

 

【耳朶に波及しない波形】

(5) diffuse α(広汎性α)

9Hz以下は異常ととし、10Hz前後でも50歳以下では問題である。 脳動脈硬化などの軽度大脳機能低下を示唆する。60歳以上の20%に出現すると言われている。出現性に耳朶が活性化した場合とそうでないものがあるといわれているが、演者の経験では耳朶を活性化した例は無かった。但し、κ律動による耳朶の活性化によるdiffuse α様パターンを誤認している可能性がある。

 

(6) Anterior Bradyrhythmia(AB:律動性前頭部δ波)

高齢者の前頭極を優位とする1.5〜2.5Hz、 50〜200μVのδ波で入眠期から軽睡眠期にかけて出現し、軽微な覚醒刺激で出現します。臨床的には軽度の脳血管障害に起因すると考えられており、 覚醒時の基礎波はslow α が多い傾向にあります。

 

(7) SREDA:Subclinical rhythmic electroencephalographic discharge of adults

(成人潜在性律動性脳波発射)

両側ないし一側の頭頂・側頭部優位に、高振幅の4〜7Hzの徐波ないし鋭波様活動が周波数を変えながら律動性に出現し、数10秒から数分間持続するパターンをいう。てんかん発作時の脳波パターンに一見類似するが、周波数の漸減などは認められず、しかもこの間に臨床症状を伴わないのが特徴である。覚醒時にも睡眠時にも出現するが、しばしば過呼吸で誘発されることがある。出現率は0.02〜0.04%と言われている。

 

 

3. おわりに

 

以上のパターンは必ずしも出現率が少ないものではないが、今までは見逃されることが多かったので境界脳波として括られていた。しかし、それらを確実に描写することで、今後臨床的意義が確立されて境界脳波から独立して個々の異常脳波としての市民権が得られるよう期待したい。

レジメの内容と図は“最新脳波標準テキスト”メディカルシステム研修所から引用した。