トピックス

 

 

 1. K-complexの由来 

まず"Kコンプレックス(K complex ; K複合)"そのものを簡単に説明しておくが、それは睡眠時脳波にみられる電位波形の一種であり、比較的軽い睡眠状態、すなわちRechtschaffenとKalesらの分類であれば、stage 4 までのうちのstage 2にみられる現象である。波形的には“頭頂部鋭波”(vertex sharp wave)などと呼ばれる高振幅の波(徐波,鋭波)と、それに後続するところの12〜14c/秒の睡眠紡錘波(sleep spindle)とか一緒になった複合波形である(図)。出現部位としては正中線上の中心部(vertex)か、それよりやや前方で最大振幅を示し、左右対称性に現れる。特に音刺激に反応して生じ、"覚醒反応"ともみられるが、外見的に目立った刺激なしでも現れることがある1,2)

多少繰り返しになるがね国際脳波学会用語委員会案(1974)3)ではKコンプレックスを次のように定義している。"Kコンプレックス"とは、その現れ方に多少の変動はあるが、2相性の高振幅徐波が、睡眠紡錘波をしばしば伴ったところの群発(burstであり、その振幅はvertex(天頂部)の近辺で最大である.この"Kコンプレックス"は睡眠時に現れ、明らかに自然に生じることもあるが、突然の刺激に対する反応として現れることもある。

しかし、その個々の感覚刺激の種類は非特異的なものである、と。

次に、この波形がなぜKコンプレックスと命名されたかの問題である。このKコンプレックスについて詳しく研究したのはH.Davisと言われており、Davis,H.らの論文(1939)4)にKコンプレックスのことか述べられているが、この用語をたどつていくと、Loomis,A.L.らの論文(1938)にたどりつく。そしてこの論文(Distribution of disturbance-patterns in the human electroencephalogram,with special reference to sleep)に上述の波形が"K wave"とか"K complex"と名付けられたことか述べられている。

しかし、どうして“K”の文字が選ばれたのか、その理由は述べられていない。

このKコンプレックスという用語の由来については、実は回答者自身もいずれ調べておかなくてはならないと考えていたので、内外の脳波書を随分と調べてみたが、これに触れた著書はちよっと見当たらないようである。

記録は上向きが頭皮上で陰性電位を示す。陰性一陽性の2相性の波の後に、12〜14c/秒の紡錘波が続いており、このように両者か一緒になった複合波形を"Kコソプレックス(K complex:K複合)"という。図ではF3-A1の導出記録を示しているが、普通は正中線上の中心部(vertex)からやや前方にかけて、振幅か最も高く、左右対称性の頭皮上分布を持っている。

脳波のことに関して、現在のところ最も詳しく述べられているのが、最近完結した"Handbook of Electroencephalography and Clinical Neurophysiology(脳波・臨床神経生理学全書)"と言え、その第11巻Aに脳波用語の解説がある。それには用語が命名された歴史的な由来まで述べられているのであるが、このKコンプレックスがLoomisらによって命名されたと述べられているたけで、命名の由来については触れられていない。

ところで、幸い日本では、横浜市立大学耳鼻咽喉科学教室の大西信治郎先生が、H.Davisの所(米、St。Louis)に留学し、帰国しているので、この大西先生に相談してみた。そして結局、このDavis先生に直接手紙を出して尋ねてみることになったのだが、Davis先生といえば、国際的な大長老の一人であり、手紙を出すことは大いにためらいを感ぜられた。しかし、日本の医学雑誌社からの依頼でもある旨を述べ、思い切って手紙を出してみた。そうしたところ、早速、次のような親切なお返事をいただいたので。それを以下に紹介するが、もちろんDavis先生にはこの手紙を翻訳して、本誌に掲載することはお断りしてある。

 

拝復

9月20日(1978)付けのお手紙拝見しました。睡眠脳波における“Kコンプレックス”という用語の由来について、貴君のお尋ねは当然のもので、この種の質問にお答えするのは、これが初めてではありません。

幸い私は、Alfled Loomis 氏と睡眠脳波の共同研究をする機会があったのですが、それは彼らか最初の論文を出したすぐ後のことでした、そして、彼が“Kコンプレックス”という用語を初めて用いているのは、その論文の中でだと思います。もちろん私とてもこの用語の意味することを尋ねました。彼の説明によると、それは全く思いつくまま(arbitrary)に付けたものであり、しかし、いかなる意味合いや含蓄など(implication or connotation)も避けるように十分心掛けて選んだということです。それはまた完全に中性的(neutral)なものであり、しかも、日にしやすく覚えやすい(easy to say and remember)という有利さを持つものを考えたということです。

貴君に対するお答えとしては余り簡単で、ちょっと信じ難いようなことかもしれませんが、しかし、そういうことなのです(that is the story)。なお、このことに関してLoomis,A.L.らによる最初の文献とは次のものです。(注:先に述べた1938年の論文のことなので省略する)

最後に貴君のご成功を心からお折りします。

敬具

1978年10月2日

 

一条貞雄殿

 

要するに、Kコンプレックスの“K”の文字それ自体は、特別な意味を持ったものではないことが分かった。ところで、一昨年(1977)オランダのアムステルダムで脳波・臨床神経生理学の国際会議が開かれ、このH.Davisが聴覚誘発電位について講演を行った。筆者もこの会議には出席し、彼の講演も聞いたのであるが、実はこの講演テキストに、Kコンプレックスの命名の由来について、ほんの2、3行であるが、同様の主旨のことが述べられていることに-後から気が付いた。燈台下暗しというべきだったか。

終わりに、この度お世話になった横浜市立大学の大西信治郎先生に、厚く感謝の意を表する次第である。

文献

l)一条貞雄:臨床脳波アトラス.南江堂,1970.

2)大西信治郎,真鍋敏毅:ERA一他覚的聴覚検査の手引,金芳堂,1976.

3)Chatrian,G.E- et al- : A glossary of terms most commonly used by clinical electroencephalographers,Electroenceph.din、Neurophysiol,37,538.1974.

4)Davis,H. et al.: Electrical reactjons of the human brain to auditory stimulation during sleep, J.Neurophysio1.,2,500,1939.

5)Loomis,A.L. et al.: Distribution of disturbanee-pattern in the human electroencephalogram, wjth special reference to sleep, J.Neurophysiol.,1,413,1938.

6)Davis,H.:Human auditory evoked potentials, Current coneept in elinieal neurophysiology (eds. by Van Duijn,H.et al.),49,Didactie Leetures of the Ninth lnternationa1 Congress of Electroencephalography and Clinicai Neurophysiology,Amsterdam, 1977.

 

(仙台鉄道病院神経科 一条貞雄<臨床検査Vol.23 no.3 1979>)

 

2. 脳波におけるECG雑音の除去法

Question

脳波検査の時にECG雑音が混入した場合,耳垂電極からの混入とわかってもいても,どうしても直りません.どうしたらECG雑音を取り除くことができるのでしょうか??

 

 

Answer

脳波に混入するアーチファクトで被検者の電気生理現象に起因するものには筋電図、眼球運動(眼球電図)、まばたき、心電図、発汗などがあり、しばしばその除去に手間どることも少なくありません。

今回、お尋ねの心電図について、その混入の原因と頭皮上での電位分布、それにその除去法を解説いたします。

R波が全誘導に混入するもっとも多い原因は、太っていて首が短いいわゆる猪首の被検者、つぎに左室肥大やスポーツ心のように心起電力が大きい被検者です。

また、1誘導のみにR波が混入している場合はその誘導の電極間の接触抵抗が高いことが考えられますので、もう一度頭皮をアルコール綿でよく拭いて電極を付け直せば消失します。

太った被検者の多くは主軸偏位であるため、全誘導に混入するR波は左側が上向き、右側が下向きになります。

この原因を調べるために石山らの論文1)を参考に実験を行いました。

頭皮上での心電位の分布を頭部外基準電極法(BNE法)で測定し、そのマッピングを描写しました。

その結果、右前側頭部から耳垂付近のR波がもっとも高電位で,立後側頭部方向に電位が低下していました。

この結果はAV法で実験をした石山らと同様の結果でした。

このことから右耳垂に波及する心電位がもっとも高く、左耳垂もっとも低いため、右側の基準導出(単極誘導)では、R波が下向きに、左側では上向きになるわけです。

それから、心電図が脳波に混入すると左右の基準電極をつなぐA1+A2誘導を行いますが、これは上記の理由から、こうすることで基準電極の心電位が平均化されるために頭皮上での心電位との電位差が少なくなり、通常の増幅器の感度では目立たなくなります。

なお、正常軸や右軸偏位の被検者では頭皮上での心電位の電位勾配が少ないので、通常の基導出ではR波が目立ちません。

以上、基準導出について述べましたが、これ以外の誘導でR波を除去することのできるものには、平均基準電極法(AV法)、頭部外基準電極法(BNE法)、それに縦列双極誘導などがあります。

また、最近はデジタル脳波計が普及しつつありますが、それには心電図フィルターが装備されているものもありますし、それにSD法も装備されていますのでその誘導でもR波を除去することができます。

 

参考文献

1)

石山陽事,他:Artifactとして脳波記録に混入する心電図の頭皮上分布,臨床脳波,12(5),333-340.1970.

2)

末永和栄1脳波アーチファクトアトラス(三版).12-17,NECメディカルシステムズ株式会社,1992.

 

(青木病院検査課課長 末永和栄)

 

 

3. 脳波検査の料金 日本とアメリカ 

来年の診療報酬改訂に当り、内科系学会保健連合会議(内保連:64学会が加盟)から脳波検査関連の答申がなされました(コメント:脳波検査の保険点数を上げるための要望は1学会では国が受け付けないので、複数の学会が内保遵に要望して、内保連から国に答申することになります。今回の脳波検査関連の答申には日本臨床神経生理学会、日本てんかん学会、日本呼吸器学会、日本睡眠学会が共通の要望事項として理由書を提出しております)。

 

社会保険診療報酬に関する要望事項(現行の点数)

1.

脳波検査(HV.PSによる負荷検査を含む):(記録時間に関係なく400点)記録時間30分以内600点、30-60分800点、60分以上1,000点睡眠賦活を施行したときは250点加算(250点)変わらず脳波検査判断料800点(140点)、他施設で記録された脳波判断料800点(70点)

2.

終夜睡眠ポリグラフィ(PSG)携帯用簡易PSG1,000点(600点)、終夜睡眠ポリグラフィ(PSG)9,OOO点(2,200点)、在宅持続陽圧呼吸療法管理科(入院外)500点(250点)、N-CPAP療法2,000点(1,210点)

3.

新設ナルコレプシーの診断検査HLA型判定検査3,OOO点反復睡眠潜時試験(MSLT)3,000点生体リズム障害および高齢者睡眠障害と痴呆老人の夜間せん妻の治療に光療法500点

 

さて、この内改訂される項目があるかどうか望み薄ながら期待したいものです。

アメリカの脳波検査料は2002年の時点で以下の通りです。

覚醒30分
睡眠30分

 検査料(テクニシャソフィー)

$120.66
$144.20

 判断料(ドクターフィー)

$58.49
$58.49


合計
$179.15
$202.69

(\19,232)
(\21,759)
12/10現在

 

【参考文献】

野沢胤美:日本睡眠学会ニュースレターNo.29.2003

 

(青木病院検査課課長 末永和栄)