20021117日(日)午後130分〜4時 「21世紀の男・女の生き方をさぐる講座」    岡山市中央公民館 メンズリブフォーラム岡山 丹原恒則

「非暴力的な男の生き方をさぐる」(1)

〜求道的な宮本武蔵を糸口に〜

はじめに 7つの約束

 

 暴力体験(その状況や気持ち)を語り合うには、安心して話せる条件がないと参加できません。そこで、次の「7つのルール」を守ることを参加者に約束してもらいます。(1)

 

@「私」を主語にして話す。(人ごとの一般論ではなく当事者として自分のことを話す)

A自分の気持ちを表すことを大切にする。(心を開いて感情・心情を吐露する)

Bこの講座グループで知りえたことは口外しない。(プライバシーの保護、秘密の厳守)

Cこの場で話をしない権利もある。(心をかたむけて聴く)

D参加者を非難したり責めたりしない。(けなさない、いいところを見つけ誉める)

E講座前にお酒を飲まない、講座中は禁煙する。

F非暴力的な生き方を願い、自分と向き合うことを目的にする。

なお、この場では、実名でなくて、自分でつけたニックネームで呼び合います。机の上の紙を四つ折にして愛称を書き、三角柱にして参加者に見えるように置きます。

 

 *簡単に、参加動機など自己紹介してから、例題1)をしましょう。

 

1.吹き出しワークをしてから、参加者同士で「暴力」体験を語り合う

 

*まず、漫画の吹き出しワーク

  漫画のセリフの空白に、気持ちや状況など思いつく言葉を書き込んでください。

*ししおどし(添水そうず)説(図1)[DV男性のたとえ]

竹筒に水が溜まって一杯になると反転して水を吐き出し、カタンと音を出す仕掛け。

 

この「暴力」には、殴る蹴るなどの「肉体的な暴力」だけではなく、言葉などによる「精神的な暴力」、生活費を出さないなど「経済的な暴力」なども含めて話し合いましょう。

 たとえば、「暴力」体験は、体罰や説教、醜いほどの自己正当化癖、夫婦間(orデート)レイプ、DV、幼児(or児童)虐待、誰に喰わせてもらっているのだといった罵声など当事者によってさまざまでしょう。

2.「暴力」の緊急的な回避の方法

 

*腹が立ってきたら、「タイム・アウト」をとる。(2)   

  約1時間、家から出て、歩いたり走ったりして、ともかく身体を動かす方法

 *「深呼吸」をする。(3)

   険悪な雰囲気になってきたら、深呼吸。そうして気持ちを落ち着ける方法

 

3.「暴力」克服の過程 <6段階の多層的介入モデル>と<5段階の過程モデル>

(病気の)治療的アプローチか(自己成長への)サポート的アプローチか〜

 

*心をかたむけて気持ちを伝え合う。

ロジャーズのクライエント中心療法をベースに相互成長をめざします。

 

 たとえば、「夫が仕事から帰った時に部屋が散らかっていたことが、きっかけで夫婦喧嘩が始まり、暴力に至った」としましょう。

@暴力に行き着くまでの夫婦のやりとりを具体的に思い出してもらう作業から始まる。

  (手紙に経過を書いてもらうなど)面談で語られた内容や会話などを会話図にまとめる。

 Aロールプレイで、お互いを尊重できるような会話を作り上げるトレーニングをする。

 B部屋が散らかり、怒鳴りだすまでに発展する背景の「認知の偏り」を発見していく。

  たとえばそれを「自分がバカにされた」ととらえたことが発端であったとする。

 Cその背景を明確化していくと、自分が尊重されたい思いがあって、それが妻によって裏切られた感覚に陥るということが分かってくる。そうすると「妻がだらしなくて部屋が汚い=怒りではなく、自分の枠組みによって怒りが暴走することが理解できる。

  このような過程で、単に妻に怒りをぶつけるのではなく、背景にある自分の気持ちを言葉で表現しながら、互いが理解し合うコミュニケーションを習得していく。

  暴力に至るには、不適切なコミュニケーションがあり、これを修正する

 Dさらに、怒りの感情の奥には、自分が尊重されたいといった何らかの肯定的な意図が必ず存在するものであり、怒りを肯定的意図に転換して、怒りを大切に扱うことによって、怒りが危険なものとならないようにする。

 Eさらに、加害男性の根底に必ず存在している自己否定の感覚を肯定的なものに変容する作業、子ども時代に被虐待経験のある方はトラウマ・ケアもする。

 

 別紙の表1,2,3作成者はサポート的アプローチで、来談者は気分がになれそう。(4)

*多層的介入モデルの考案者は、治療的アプローチなので、来談者が、不健康な病人にみられることを嫌がり(治療動機を欠く)、本人は内心つらいのではないでしょうか。(5)

 4.非暴力的なコミュニケーションの方法や工夫について

 

*参加者同士、非暴力的なコミュニケーションの方法や工夫について話し合いましょう。

 

*試しに男女の「立場交換」をする。(6)

  たとえば、夫と妻の役を男女入れ替え、演じて会話して、ロールプレイをします。

  実際に、男性は、妻役を女言葉で演じ、女性は、夫役を男言葉で演じてみます。

おそらく日頃は意識しない男女関係の奇妙な問題に気づき、解決を動機づけられます。

  妻役を演じることで、女性の置かれている状況や立場に共感的な理解が及ぶでしょう。

 

 *まず、「自ら信じ自ら重んじるものがあるか」自問自答してみる。

 最も恃むべきは「屋漏に恥ざる」、人が見ていようが見ていまいが恥じるところがない。

 洋語に言う「ディグニティ」、自分に尊厳を認め自尊感情がもてるのか、否か。(7)

 いかにコミュニケーションする主体=個人を確立するか。

 

*お互い尊重し合う、コミュニケーションをしていくには、どうしたらいいのか。

 非暴力的にお互い尊重し合うには、何が大切か。

 「愛」「敬」「恕」にもとづく「夫婦」(「男」「女」、人間)関係論(8)

 動物的に、相互に隔てなく可愛がる「愛」。万物の霊として、お互いに丁寧にし大事にする「敬」。己の欲せざるところを人に施すなかれという思いやりの「恕」。「愛敬」は何かすること、「恕」は尊厳など侵さないことなど、しないこと。

つまり、親密な夫婦や親子関係でも、愛「すること」だけではダメで、尊厳を侵すようなことを「しないこと」が、大切なこととして再確認されます。

 

*上記のロールプレイを通じ女性→「妻を従属的な存在として見ていた観念」に気づき、

  この観念が「くつがえされることによる怒りが暴力に発展していることを知る」

  「妻が自分とは違う考え方や生き方をもつことを認め…家庭生活を営んでいく」(9)

 

 *暴力的な男性の多くは「社会や家族において自分が尊重されなかった…経験が見いだせる」そして「自分を受け入れてくれるはずだと願う親密な人間をターゲットに暴力を行使する」そうすることで「自分の中の傷つきを埋め合わせようとする」。この「暴力による埋め合わせは、(暴力の目的とする)本質に届かない」から「これまで隠されてきた暴力の本当の目的を、暴力でなく…獲得する経験を蓄積することが…目標となる」(10)

 

 *例題2)をやってみましょう。時間があれば次に、例題3)もやってみましょう。

5.「男性の暴力」性は、個人の問題か社会的歴史的な(ジェンダー)問題か

 〜「男は黙って、強く逞しく」といった日本的な男らしさと武士道的な精神〜

 

6.非暴力的な男の生き方をさぐる〜求道的な宮本武蔵を糸口に〜   

 

 5.6.については、12月8日の次回月例講座で、じっくり考えましょう。

 今回は、ワーク中心にして、「男性と暴力」のテーマを非暴力的な男の生き方をさぐる内面的な「個人的問題」として考えてみました。次回は、「男性と暴力」の「社会的問題(ジェンダー論、日本的な男らしさの構築など)」について、考えてみたいと思います。

 講座を2回に分けたのは、今回は「じっくり自分に向かい合う」ことに重きを置きたかったからです。何らかの発見や変化があったでしょうか。

 次回は、個人では如何ともし難い「社会的・歴史的・文化的な問題」を、武蔵を糸口に考えます。五輪書や独行道などを書き残した武蔵の人生をてがかりに、非暴力的な男の生き方をさぐります。

たとえば、前半生の30歳までは武者修行で剣に明け暮れた武蔵が、後半生は試合をせず「朝鍛夕錬」に励み「剣の道」を究めつつ、書画や彫り物など「文武両道」に生きたことは、何か生き様として暴力から非暴力へのヒントが、ひそんでいるのかもしれません。

また、なぜ、21世紀の開幕に「バガボンド」がサブカルチャーとして2700万部も発行され若者たちに支持されるのか、ハイカルチャーとしてNHK大河ドラマで「武蔵-MUSASHI」が海外配給まで視野に入れて放映されるのか、「求道的な精神修養者・武蔵の何が21世紀にも生きつづけるのか」も考えてみたいです。

 

注(1)中村正『ドメスティック・バイオレンスと家族の病理』(作品社,2001,149~150頁)

 (2)同上(156~160)

(3)千葉征慶「暴力克服のための人間観に関する一研究-ある加害男性の恢復過程が物語るもの-」『アディクションと家族』第19巻1号(ヘルスワーク協会,2002,86頁)

(4)同上(86~91)

 (5)草柳和之「ドメスティック・バイオレンス問題の新展開」『しずおか精神保健』(静岡県精神保健協会,No.46,2002,8~11,)

 (6)福沢諭吉「日本男子論」中村敏子編『福沢諭吉家族論集』(岩波文庫,1999,183)

 (7)同上(155~156頁)

 (8)同上(147頁)

 (9)草柳和之『ドメスティック・バイオレンス-男性加害者の暴力克服の試み-(岩波ブックレット,No494,1999,30)

 (10)同上(31)

≪このレジュメに関連する文献≫

味沢道明「マザラー味くんの肉体派外伝1 メンズカウンセリング 上」『男女共同△関係誌わいwai wai wai』創刊準備号No.0(わいわいわい編集部,2001)

味沢道明「マザラー味くんの肉体派外伝2 メンズカウンセリング 下」『男女共同△関係誌わいwai wai wai』創刊号Vol.1-1(わいわいわい編集部,2002)

伊東博編/訳「パースナリティ変化の必要にして十分な条件」『ロジャーズ全集 4 サイコセラピィの過程』(岩崎学術出版社,1966

井上哲次郎「武士道総論」『武士道全書第1巻』(時代社,1942)

桑原武夫『「宮本武蔵」と日本人』大衆文化研究グループ[梅棹忠夫・鶴見俊輔・樋口謹一多田道太郎・藤岡喜愛・桑原武夫]共同研究(講談社現代新書,1964)

相良亨『相良亨著作集1』日本の儒教T(ペリカン社,1992)

相良亨『相良亨著作集2』日本の儒教U(ペリカン社,1996)

相良亨『相良亨著作集3』武士の倫理・近世から近代へ(ぺりかん社,1993)

佐藤忠雄「「宮本武蔵」論-その修行と遍歴のイメージ-」『日本映画と日本文化』(未来社,1989)

佐治守夫・飯長喜一郎編『ロジャーズ クライエント中心療法』(有斐閣新書,1983

佐治守夫編/友田不二男訳『ロジャーズ全集 2 カウンセリング』(岩崎学術出版社,1966

丹原恒則「まぬがれがたき極私的DV事情」『男女共同△誌わいwai wai wai』創刊号vol.1-1(わいわいわい編集部,2002)

丹原恒則「「メンズカウンセリング 上」を読んで…「ラジカル・メンズリブ」の誕生」『男女共同△誌わいwai wai wai』創刊号vol.1-1(わいわいわい編集部,2002)

豊田正義『壊れかけていた私から 壊れそうなあなたへ』(大修館,2000)

豊田正義『DV-殴らずにはいられない男たち』(光文社新書,2001)

中村正「ドメスティック・バイオレンス加害者治療の試み-「男の非暴力グループワーク」の経験から-」『アディクションと家族』第17巻3号(家族機能研究所,2000)

新渡戸稲造『武士道』(岩波文庫,1938)

畠瀬稔「クライエント中心療法」小此木啓吾・成瀬悟策・福島章編『臨床心理学体系 第7巻心理療法@』(金子書房,1990)

福澤諭吉『明治十年 丁丑公論・痩我慢の説』(講談社学術文庫,1985)

細谷実「男性的主体の諸問題」『性別秩序の世界』(マルジュ社,1994)

丸山眞男「武士道のイデオロギー的集成」『丸山眞男講義録[第五冊]日本政治思想史1965(東京大学出版会,1999)

水野治太郎「修養文化の個性と限界-美的倫理的身体表現を考える」水野治太郎・桜井良樹・長谷川教佐編『「宮本武蔵」は生きつづけるか-現代世界と日本的修養-(文眞堂,2001)

宮本武蔵『五輪書』鎌田茂雄全訳注(講談社学術文庫,1986)

安岡正篤「二天宮本武蔵の剣道と心法」『日本精神の研究』(玄黄社,1924)

 

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