Q
電話相談員の研修に行きました。「今から自殺したい」という電話が入ったときは、まず自殺に至るつらい苦しい状況を具体的に話してもらって、そのつらい気持を受け止めてもらうようにというお話でした。
A 気持ってどうやって受け止めるんだろう?キャッチャーミットかな。
Q 過去のイヤな感情に丁寧につきあうことで、自分の気持ちをわかってくれる他者に出会い、癒されていくのだとおっしゃった。これは原因論的解決方法だと思う。野田先生はどのようにお考えでしょうか?
A
電話相談はやめたほうがいい。長い歴史があるんです。“命の電話”とアドラー心理学との葛藤の歴史です。あそこへ行っていてアドラー心理学に出会った人もいるし、アドラーからあそこへ行った人もいるが、全部うまくいかなかった。
あそこのスーパーバイザーはロジャースの系統で、あんなのは反治療的です。あんなのとつきあってもしょうがないから、電話相談は引き受けないほうがいい。
アドラー心理学では、そういう状況ではカウンセリングを引き受けないんです。引き受ける条件がある。1つは目標が一致できること。
向こうが「死にたい」と言ったら基本的にはこっちとしては「どうぞ」なんです。無理やり止める気はない。人間には生きる権利があるけど、死ぬ権利もあると思うから。私自身は自殺の権利を確保しておきたい。したくはないけどね。いざとなったら自殺できると思っているのは、安心して生きるための条件だと思います。
それから大事なのはクライエントの責任です。具体的には、「支払いしてくれるかどうか」です。支払うのはクライエントの責任です。電話相談は支払いがないから、クライエントはまったく無責任です。その状況ではカウンセリングは成り立たない。
アドラーのカウンセリングは、お互いどうし顔見知りで、「われわれは友だちだよ」ということがあって初めて成り立つ。それなしに、電話で顔も知らないし初めて出会う人で、お客も側もカウンセラーの顔を知らない。そんな状態でカウンセリングが成立すると思えない。どう考えても。
本来、“命の電話”は、今の日本みたいにロジャース派に占拠されて、「そう、苦しかったのね」というものではなくて、アメリカではキリスト教がやっていたんです。キリスト教は自殺するとまずいですから。宗教的な動機から動いているから、もうちょっとはっきりと、電話かける側も受ける側もキリスト教で、「自殺したい」「それしたら地獄へ堕ちますね。神の教えに背きますよね」という設定で始まるから、目標が一致している。それを日本へ持ってきて、キリスト教でもないし、違う流派の宗教の人がやってもうまくいかない。あんなのやめたほうがいい。
カウンセリングをやりたい人はこの世に多い。なんでかわからんけど。こんなドブ掃除みたいな仕事をねえ(笑)。
どうしてもしたい人は、まず隣近所の友だちのカウンセリングをします。隣近所の友だちが相談に乗ってもらいたいと思わないような自分だったら、カウンセラーに向いていないから諦めること。みんなが「ちょっと聞いてよ」と来るようなら向いているから、店を出してもやっていけます。
カウンセラー資格についての政治的な動きがあって困っています。臨床心理士という資格です。臨床心理士認定協会が資格認定している。かなり厳しい。心理学系の大学院修士課程卒業して一定期間の臨床経験があって、試験に通ったらもらえる。5年ごとに更新。5年の間に、講習会に出てクレジットをもらう。それを国に国家資格として認めてくれと迫ってきた。国はなかなか認めなかった。政治は党利党略で動くから、票につながるとなれば国家資格になるかもしれない。そこで一派は(親玉は河合隼雄氏)、スクールカウンセラーという変なものを発明した。文部科学省に働きかけて、全国の学校に「スクールカウンセラーを置け」と迫った。これはうまくいかないと思うよ。あちこちでスクールカウンセリングの被害に遭っている。変なカウンセラーが来てムチャクチャになったとか、生かじりアドラー心理学でスクールカウンセラーをやって、生徒からも学校からもイヤがられたり、いろんな事例があって困っている。結局うまくいかないだろう。
先生にすでにカウンセリングの能力がある人がいるし、教育センターなどの相談機関がすでにある。そこでは学校とは比較的独立に動ける。それなのにさらに派遣カウンセラーを置いても存在の意味がない。まあ、政治的に実績を積んでおいて、「ほら、必要でしょう」と言いたいが、「いらないでしょう」のほうがどっちかいうと証明されそうです。
1995年の神戸の震災のとき、臨床心理士の会から「心の傷ありませんか?あったら言ってください」と言われた。あれで余計悪くなった。それまで傷なんかなかったが、カウンセリングを受けている間にだんだんそんな気になって気持ちが悪くなった。ですから評判が悪い。(神戸の)生首事件があったりすると、ドッとカウンセラーを派遣する。これでだいたい、カウンセリングは役に立たないということを証明している。当分臨床心理士は国家資格にならないだろう。
ということは、今は、やり放題です。今、開業したほうがお得です。既成事実の積み重ねで。明日からマンション1室を借りて宣伝すれば、それなりにお客は来るでしょう。やっているうちにだんだん上手になる。私は全然責任を取りませんけどね。命の電話よりよっぽどまっとうなカウンセリングができそうです。(回答・野田俊作先生)