Q
 優越の位置や劣等の位置は、年月や状況につれて変化することはありますか?

A
 ないですね。発達のことを考えると、生まれた瞬間にライフスタイルがあるわけじゃないと思う。子どもは初め何も知らないから、いろんな試行錯誤をしますよね。してはいけないことをいっぱいするわけですよ。で、成功したり失敗したりするでしょ。成功した中から「自分はこうすべきだ」、失敗した中から「自分はこうすべきじゃない」と決めていくわけです。いつまでも試行錯誤してないので、いつごろ試行錯誤をやめて、「だいたい私とはこんなもんだ」とか、「この世とはこんなところだ」とか、「こんな場合にはこうすべきだ」「こんな場合はこうすべきでない」とか方針を立てるかというと、アドラーは5歳だと言いました。実際に見てると5歳はちょっと早いと思う。5歳というのは幼稚園の年中さんくらいですけど、あのあと小学校へ行ってからライフスタイルは変わると思う。だから一番後ろをとれば10歳かなあ。中学生になってから性格が変わる子は、よっぽどのことがないといません。まったくいないことはないです。例えば、突然両親が事故かなんかで死んでしまって、子どもだけ取り残されて、意地悪なおばさんかなんかに引き取られて、毎日意地悪されて暮らしたりしたら変わりますよ。普通の家庭で普通の条件で育っているというのを見れば、だいたい10歳くらいで全員固定して、そこからあまり変えないという気はします。だからまあ6歳から10歳までの間のどこかでほぼ、自分とか世界とか人生とかについての計画を立て終わるんだと思います。そこから変わらないかというと、変わることは変わります。小さい手直しは結構あるように思うんです。思春期の間は。中学行ったり大学行ったりして友だちが替わる。親元を離れて独り暮らしをするとか、異性関係ができるとかのようなことを通じて手直しをしていきます。手直しはするけど、根本方針は普通あまり変わらない。逆にどんな場合に変わるかというと、それまでのライフスタイルじゃあ絶対にやっていけないと思ったとき。まあ破滅しちゃったとき。人間はどんなとき破滅するか?有名な事例は、ストックホルム症候群という話があるんです。2人組の銀行強盗が銀行へ行って、2人の女子行員さんを人質にして立て籠もったんです。警官隊が取り巻いたけど、「もしも突入すると女子行員を殺すぞ」と、とりあえず女の子たちを代わるがわるレイプしたんです。長いこと立て籠もっていてずいぶん長いことレイプされていたんです。最終的には警官隊が突入して逮捕されます。まずいことにこれが逐一、レイプされたことまで言われないけど、テレビとか新聞とかで報道されたんです。2人の女の子が人質だと。この女の子たちにしたら、それまでの生活スタイルがすっかり変わっちゃったわけです。三流週刊誌がレイプされたことをすっぱ抜く。結局どうしたかというと、刑務所に入っている男の子たちのところへ面会に行って差し入れしたりして、最終的に刑務所を出てきたら一緒に暮らすようになったんです、2人とも。心理学者が大変興味を持って、ライフスタイルが変わったのか行動が変わったのか。事前のライフスタイル調査はしていないけど、ライフスタイルは変わりました。それまでのカタギの女子行員としての暮らしがそのあとできない。絶望しちゃって、その犯罪者の妻としてでもとにかく所属して男と暮らすしかないと思った。あと、洗脳ね。例えば日本の兵隊さんたちがシベリアへ抑留されました。抑留されただけでなく、大変激しく洗脳教育されました。ソビエトに。それで洗脳を受け入れて共産主義にOK出した人たちは待遇が少し良くなったし、ノーを出した人は待遇がひどくなったんです。生きるか死ぬかの瀬戸際で洗脳したんです。それで多くの人たちが骨の髄から共産主義者になりました。やがて釈放されて日本に帰ってくると、みな真っ赤っかになっていて、舞鶴へ帰ってくると舞鶴の港でデモ行進してたりしていました。これも心理学者が興味を持って、そのあとどれくらい日本の共産党員になったか調査をしたんです。そしたら1割くらいだって。残りの人たちは、こっちへ帰ってくると日本という洗脳があります。田舎へ帰ったらおじいちゃんおばあちゃんや親戚がいて、「何してんのよ。ここはシベリアと違うのよ」と言って、1週間か2週間で普通の日本人に戻りました。でもあのあとずーっとソビエトで暮らしていたとしたら、その人たちは一生ライフスタイルはそのままだったと思う。だからライフスタイルというのは、強烈な体験、レイプだとか洗脳だとか、そうでなくても災害なんかで友だちも家族も家族も親戚もみんな亡くなって1人残って、仕事もダメになったとか、そんなことでもあれば変わりますけど、そういう変わり方って、積み重ねなんです。前のライフスタイルはあるんです。あるんですけど、その上に新しく積み重ねられた洗脳があるから、その新しいのをしなくてよくなったら前のに戻ります。だから、変わらないと言えば変わらないですね、ある年齢以後、10歳以後は。変わらないと言えば変わらない。変わると言えば変わる。普通そんな強烈な変わり方はしないので、だいたい、優越の位置とか劣等の位置とかは、「私は人から好かれなければならない人」はたぶん人から好かれなければならないのですが、ライフスタイル分析したりカウンセリングを受けたりすると、「すべての人からどんな場合にも絶対に人から好かれなければならない」ような子どもっぽいことは考えなくなるんです。なるべく多くの人からまあ無視されない程度に好かれればいいかなと、大人っぽい妥協点ができるんです。子どもって、百かゼロかで、完全に好かれていなきゃ嫌われていると思うんだけど、大人って真ん中がいっぱいあって、100段階のうちどこかゼロでなきゃいいやって60点くらいだったら合格だと思いますから、そういう点では変わります。でもポジションそのものは変わらない、劣等の位置、優越の位置という。(回答・野田俊作先生)